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震災便乗詐欺

2024年2月15日
◆社会全体で抑止に努めたい◆

 能登半島地震の被災地などで、震災に便乗した詐欺まがいの悪質行為に関する相談が警察や国民生活センターに相次いでいる。住宅改修の工事業者を装った勧誘トラブルや義援金詐欺のような事案が多発しているようだ。被災者の弱みや支援者の善意につけ込む卑劣な行為の横行を断じて許してはならない。

 (1)被災した家を訪問し、災害時に必要となる物品販売や家屋の修繕などを、不安をあおるなどして契約させる(2)薬不足に乗じた無承認医薬品の販売・広告や健康を損なう恐れのある食品の販売―。便乗事犯として警察庁が挙げる事例だ。

 石川県内では先月17日時点で、震災便乗とみられる悪質な行為に関する相談が警察に96件寄せられた。契約書類を渡さず被災住宅にブルーシートを設置した上、当初の提示より高い金額を請求するといった例だ。

 同種の相談は震度5強を観測した富山県高岡市でもあった。「国から要請を受け、名古屋から来た」と称する男2人が、ブルーシートを「1メートル千円で10メートルから販売する」と言って売りつけようとしたという。

 被災地では他にも、屋根瓦の修理を持ちかける手口や、家の片付けを装ったり液状化による泥を処理すると働きかけたりして高額な請求をする行為も報告されている。

 ボランティアによる炊き出しなど、被災者を支える善意が被災地には不可欠だ。便乗犯への警戒が過剰になり、支援のため各地から現地を訪れた人々が「不審者」と疑われてしまうことになっても困る。被災した人々が心細い思いをせず過ごせるよう何が必要か、安心安全の確保に知恵を絞る必要がある。

 狙われるのは被災者だけではない。公的機関や災害支援団体などをかたり、義援金の募集名目に現金や電子マネーを詐取されたり、被災者の身内や友人を装い、困窮を理由に送金をだまし取られたりする被害にも警察庁は警鐘を鳴らしている。

 東日本大震災では被災地を含め全国で震災に便乗した詐欺事件が相次ぎ、警察の認知件数が2011年3月11日からの5年間で204件、被害額は約19億900万円に上った。デジタル技術の発展などに伴い、手口が巧妙化する恐れも否めまい。

 避難のため自宅を離れざるをえない被災者には、空き巣や置引といった被害も不安材料となってのしかかる。警察庁は防犯カメラ約千台を被災地の避難所や街頭などに順次設置する方針だが、パトロールする警察官など「人の目」の存在を示す方がより防犯効果はあるだろう。震災が便乗犯に追い風とならぬよう、社会全体で抑止に関心を持ち続けたい。

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