◆民主化を諦めるな 行動せよ◆

　ロシアのプーチン大統領の独裁と腐敗・汚職を批判し、でっち上げの長期刑を受け投獄されていた政治犯アレクセイ・ナワリヌイ氏が獄中で死亡した。

　劣悪な環境で３年も拷問的な扱いを受けていた同氏の死はプーチン体制による「政治的殺害」にほかならない。ロシアの民主勢力にとり大打撃だ。ロシアの人々は民主化の闘いを諦めないでほしい。

　プーチン氏にとり、「反プーチン」の象徴だったナワリヌイ氏の死で事実上のライバルはいなくなった。３月の大統領選で”圧勝”を演出し、続投の正統性を強調するだろう。

　ウクライナに軍事侵攻し、日米欧など民主主義社会と決定的に対立したプーチン氏は、秘密警察を駆使して反対派への弾圧を強めている。恐怖と絶望の中で萎縮している国内外の民主勢力は、今後いかに民主化運動を進めるのか、極めて困難な状況に置かれている。

　ナワリヌイ氏は２０００年代以降、プーチン氏と側近らの腐敗、隠し資産と乱れた私生活などを暴く数々の動画を作成し発表。「国父」を気取っていたプーチン氏に強烈な打撃を与えた。プーチン氏はナワリヌイ氏を激しく憎んでいるとされる。

　２０年８月、ナワリヌイ氏は猛毒の神経剤を使った毒殺未遂に遭う。同氏チームは、実行犯がプーチン氏に直属する特務機関、連邦保安局（ＦＳＢ）の工作員だった決定的事実を突き止めて公表、大反響を呼んだ。

　一命を取り留めたナワリヌイ氏はドイツでの療養後、周囲の反対を押し切って２１年１月に帰国。過去の軽微な経済犯罪を理由に逮捕、収監された。

　毒殺未遂の後遺症で健康が悪化した同氏に刑務所当局は適切な医療措置を与えず、規則違反を理由に頻繁に独房に収容するなど事実上の「拷問」を加え続けた。昨年１２月には、首都モスクワからはるか遠い北極圏に位置する刑務所に移送。同氏の動向が社会に伝わるのを防ぐのが狙いだった。

　ナワリヌイ氏支持者の間では、南アフリカのアパルトヘイト（人種隔離）と闘い２７年間の獄中生活を経て大統領に就任した故マンデラ氏のように、ナワリヌイ氏が「獄中から勝者として凱旋（がいせん）する」ことへの期待があった。同氏の死去で、プーチン体制が最も恐れていたこのシナリオは実現不可能になった。

　２３年３月発表の米アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門を受賞した映画「ナワリヌイ」の中で、ナワリヌイ氏は殺された場合の「遺言」を残していた。「（体制が私を殺すのは）われわれが強いからだ。この強さを利用してほしい。諦めてはいけない。行動してください」