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半導体新工場

2024年2月27日
◆地域との調和 長期的利益に◆

 半導体生産で世界の先頭を走る台湾メーカーが今月、熊本県の新工場の開所式を開き、生産準備を加速させる。半導体は自動車、家電、ハイテク製品はもちろん、人工知能(AI)や画像処理システムに欠かせない。

 日本は1980年代に覇権を握ったが、技術開発と大規模投資についていけず、韓国、米国、台湾メーカーに後れを取るようになった。

 半導体関連産業が国際的な開発競争に再び打って出るため、政府は台湾積体電路製造(TSMC)に5千億円近い補助金を約束。同社は2年余りで工場を建設した。経済安全保障が産業・貿易の軸になる中で、政府が半導体産業の再強化と生産拠点の国内回帰を急ぐのは当然だろう。政府は補助金を拡大するため、2023年度補正予算に1兆8600億円を計上した。

 TSMCに対する助成は、今後建設される第2工場を合わせると1兆2千億円に膨らむ。北海道では国策プロジェクトとして最先端半導体を開発するラピダスの工場が建設され、岩手県や三重県でも東芝の事業を引き継いだキオクシアが米国企業と組んで量産を計画している。素材、部品、製造装置の集積が各地で生まれようとしている。

 こうした事業への支援額は4兆円規模に上るとみられる。だが国際競争に敗れ、いったん衰退した産業を再生するのは簡単ではない。半導体は好不況の波が激しい。競争を勝ち抜いてきた台湾や米国の企業との協力は、国内事業をよみがえらせるための有効な手段だが、空前の政府支援をいつまでも続けるわけにはいかない。補助金依存から脱却しなければ、半導体産業が再生したとは言えない。

 巨額支援による半導体復権を主導した経産省や自民党商工族は、事業が自立するための道筋を明確に示す責任を負う。先端半導体の生産が計画通り進むように管理する仕組みが必要だ。財政資金の獲得だけが政治家や官僚の役割ではない。

 国内への生産回帰は、新たな拠点ができる地域との共生が条件になる。自治体は地方税収の拡大が期待できる一方で、工場周辺のインフラ整備はもちろん、医療、教育、住宅などの面で海外の技術者が住みやすい環境をつくることが必要だ。

 日本に進出する企業には地域との十分な意思疎通を求めたい。例えば、半導体生産には大量の水が必要だが、TSMCが進出する地域では、地下水の利用や排水処理への不安がくすぶっている。TSMCは優れた水処理技術でも知られる。技術の秘密保持にこだわらず説明を重ねてほしい。地域社会との調和が、長期的な利益を生むことを忘れてはならない。

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