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春闘高額回答

2024年3月15日
◆息の長い賃金改善が重要だ◆

 製造業を中心とする大手企業の春闘は満額回答が相次いだ。昨年を上回る高水準の賃上げになるのは確実だ。

 賃上げ幅が大きいことに加え、基本給を底上げするベースアップ(ベア)に踏み切った企業も多い。物価高と人手不足に押された面はあるが、20年余り続いた賃金低迷がようやく転換し始めた。

 だが油断はできない。中小企業の交渉はまだこれからであり、非正規雇用への波及は高いハードルだ。業種別に見てもサービス業の賃金は見劣りする。企業規模や業種を横断した動きにならないと、賃金抑制型の社会が変わったとは言えない。

 何よりも大事なのは息の長い賃上げを実現することだ。物価高が一服しても、賃金の改善が続かないと豊かさを実感することはできない。賃上げを前提とした経営を定着させるのは労使共通の使命であり、政府や自治体も強く後押ししてほしい。

 背景の一つは人手不足だろう。勤労世代の減少傾向が続く。多くの企業が初任給の引き上げに踏み切っているのは、新規採用による人材の確保が厳しくなっているからだ。

 日本商工会議所によると、昨年賃金を引き上げた中小企業の4割は、業績が改善していなかったが、賃上げに踏み切ったという。従業員の生活を守るにはやむを得ないと考えたためだ。

 下請け企業に対し、原材料の値上がり分を価格転嫁することを認めても、人件費の上昇分の転嫁は認めない会社もある。多くの下請けを抱える大企業は、供給網全体で賃上げを容認し、取引価格に反映させる方向を明確にしてほしい。

 外食、観光などのサービス業は厳しい競争にさらされており、価格を抑える傾向が強い。賃金を改善するには、業務の効率を高めることが必要だ。経営者はデジタル化投資、多様な人材の登用、働き方の見直しをためらってはならない。

 賃金を抑え続けたことが、産業の新陳代謝や業務改革を遅らせ、旧態依然とした手法で事業を続ける要因になったという指摘もある。業績が悪化したら人件費を真っ先に削るというデフレ期の経営には一刻も早く決別しなければならない。

 賃上げを着実に実現することを目標に事業を見直し、収益力を高めていくのがこれからの企業経営の在り方だ。恒常的に人手不足が続く可能性があり、女性や高齢者の活用、テレワーク、短時間労働など多様な働き方が求められる。

 正規、非正規の賃金格差の是正ももっと加速する必要がある。賃金改善と多様な働き方を軸に、労使の意思疎通を一層深めねばならない。

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