自身の人生を変えた農家民泊をテーマに卒論を書く曽我部さん(左)。北きりしま田舎物語推進協議会の事務局に現状を取材するなどして準備を進めている=小林市
宮崎大農学部4年の曽我部泉さん(21)=北九州市出身=は高校時代に本県で体験した農家民泊が人生の転機となって今がある。当時は勉強する意味が見いだせず退学も考えていたが、農家の言葉に「考えを180度ひっくり返された」。学生生活の集大成となる卒業論文のテーマも「すごい力がある」と身をもって思う農家民泊。「農家の人たちが上昇していけるよう一生懸命仕上げたい」と曽我部さん。受け入れ団体を取材するなど“恩返し”の準備を進めている。
地元高校の普通科に通っていた曽我部さんだが、1年の夏に中学からの友人2人が退学し、学校が楽しくなくなった。2年になるとほぼ登校せず、もともと農業に興味があったこともあり「勉強する必要もない。学校をやめ農家で働く方がいい」と考えるようになっていた。そんな時、ずっと気に掛けてくれた担任の先生に「決める前に一度農家に行ってみたら」と諭された。
インターネットで見つけたのが西諸2市1町で農家民泊を推進する「北きりしま田舎物語推進協議会」。2010年夏に母と2人、2泊3日で今の会長で園芸農家の冨満哲夫さん(49)=小林市=らを訪ねた。農作業体験はもちろん新鮮なことばかり。でも何より、冨満さんから「農家になりたいんだね。なら、なおさら勉強しないといけない。人の口に直接入る物だから」と言われ、心が震えた。
「その日は眠れなかった。担任の先生も言っていたことだが、響き方が違った。帰る時には母に『学校に行く』と伝えた」と曽我部さん。宮崎大農学部は農業を学ぶのにいい環境-。冨満さんの言葉が明確な目標となった。
久しぶりの学校はしばらく独りぼっち。それでも努力を重ね、同学部の森林緑地環境科学科に合格した。充実した学生生活を過ごした今、地元の福岡県で公務員となり、行政の立場で農業をサポートしたいと夢を描く。
卒論では、修学旅行生の受け入れを伸ばし、さらなる飛躍を見据える同協議会の事務局態勢などの在り方を考察する予定だ。小林市の協議会事務局を訪ねるなどして準備を進めており、「受け入れが増えればケアする事務局も充実する必要がある。収支も分析して現実味のある数字を出していきたい」と曽我部さん。「農家民泊の影響力はすごい。私の人生も変わった。北きりしまにもっと多くの人が触れてほしい」と笑顔を見せる。
冨満さんは「農家民泊は出会いが一番の魅力。どんな人が来るかいつも楽しみに待っている。曽我部さんの今を見ると、『大人になったな』とうれしくなる」と喜びつつ、「これからも農家民泊を通して農業、農村のことを伝えたい。そして何か一つでも心に残るものがあればうれしい」と話している。