青島太平洋マラソンで心肺停止となったランナーの救命に当たった宮崎市消防局南消防署の濵畑貴晃(中央)、坂本修一(左)、馬迫文明さん=宮崎市
宮崎市を舞台にしたロードレースの青島太平洋マラソン(実行委員会など主催)。昨年12月の第32回大会にも全国から多くのランナーが集い、熱いレースを繰り広げたが、レースとは別のドラマも生まれていた。約9千人が出場したフルマラソンの部で、男性ランナーの心肺が停止。幾人ものランナーが自らのレースを中断し、男性の命を救ったのだ。その姿は観客やランナーの称賛と感動を呼んだ。
スタート地点から6キロすぎ。大分市の60代男性が突然倒れ、居合わせたランナーが男性に心臓マッサージを施す。この光景が宮崎市消防局南消防署の救急係長、濵畑貴晃さん(47)の目に入った。濵畑さんは一緒に走っていた同僚と駆け寄り、蘇生を開始。数分後、宮崎大医学部付属病院救命救急センター看護師の杉富寛之さん(40)もその場に差し掛かった。ほんの一瞬、大会を目標に積み重ねた練習が頭をよぎったが、すぐにレースを中断した。
この後も救命の輪は広がった。その中の一人、山﨑英樹さん(52)は鹿児島市医師会病院の産婦人科医で「(心肺蘇生は)あまりやらないが、重労働なのはよく分かる。力になりたい」と蘇生に加わった。最終的に10人ほどが交代で心臓マッサージと人工呼吸を続け、さらには混雑解消のため、通過するランナーの誘導も行った。
男性が倒れた約10分後に到着した自動体外式除細動器(AED)を使い、男性は蘇生。同センター助教で医師の安部智大さん(36)がレースを中断して付き添い、男性は救急車で同付属病院へ搬送された。
心肺蘇生に携わった人たち以外にも多くのランナーが、通過するランナーや救急車の誘導などで協力。救命処置の開始から救急車の出発を見届けるまで30分ほどが経過していたが、それらのランナーは再び走りだし、全員が完走を果たした。
約2週間後、男性は後遺症もなく無事に退院し、同センターを訪ねた。男性は杉富さんの手を握ると、涙ながらに「助けてくれてありがとう」と何度も繰り返した。
杉富さんは「本当によかった。ただ、いつどこで誰がこうした場面に遭遇するか分からない。AED設置場所や心臓マッサージのやり方などに関心を持ってほしい」。濵畑さんも「救急隊が到着するまでの時間が生死を分けるといっても過言ではない。倒れた人を見掛けたら勇気を出して関わってほしい」と訴える。
同マラソン事務局は救命に協力したランナーらに対し、27日に感謝状を贈る。