紙面特集

新聞が育む 子どもの力

造詣深い教職員4氏座談会

2022年7月3日付 宮崎日日新聞掲載

 「第27回NIE全国大会宮崎大会」(日本新聞協会主催)は8月4、5日、宮崎市で開かれる。同大会を前に県内のNIE(教育に新聞を)活動に造詣が深い4氏に、NIEの実践ポイントや大会に寄せる思いなどを同市の宮日会館で語り合ってもらった。要旨を紹介する。

県内のNIEの取り組み状況や今後の課題などについて意見が交わされた「NIE座談会」

参加者

  • 宮崎市・宮崎大宮高校長 押方修さん
  • 西都市・穂北中校長 伊東泰彦さん
  • 宮崎市・宮崎第一中高講師 猪野滋さん
  • 宮崎市・生目南中校長 田上幸雅さん
  • 司会 宮崎日日新聞社生活文化部長 久保田順司
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「書く力」論文で発揮/猪野

楽しさと長続き重要/田上

■実践ポイント

 -8月の「第27回NIE全国大会宮崎大会」を前に、教育現場で機運は高まっているか。

 猪野 学内では大会で実践発表を行う教員を中心に盛り上がってきており、少しずつ機運が醸成されてきている。

 田上 機運の高まりは、これからだと思っている。宮崎大会の開催によってNIEや、その教育効果に興味を持つ先生が増えればいい。

 伊東 校内にNIEに関する記事を集めたコーナーがあり、生徒たちがよく見るようになった。

 押方 大会で公開授業を担当する教員を中心に、学内では機運が高まりつつあるが、他は広がりがみられない。メディアの報道によって子どもたちの関心が高まるのではないか。


 -NIEを実践する上でのポイントや教育的効果について教えてほしい。

 伊東 ポイントは二つ。一つは背伸びをせず、持続可能な取り組みをしていくこと。もう一つは教育効果を意識しながら取り組むこと。例えば、見出しを付けることにより内容を理解し、要約により端的にまとめる力が身に付く。どのような力が付くかを意識して取り組むことが肝心だ。自校では「新聞に書いてあるように逆三角形で話しましょう」と声をかけていることもあり、重要なポイントや結論を先に述べるなど、対話力が上がった。

 猪野 自校では子どもたちには「はてなノート」として記事をスクラップしてもらっている。どんな記事でも良く、自由にレイアウトして要約してもらう。不思議だが、出来の良いノートを見本として見せると、みんなそのレベルになる。スクラップを続けることで「ニュースが気になる」という感覚が磨かれ、レイアウトや表現もうまくなる。また新聞制作もお勧め。総合的な学習の時間に、探究結果の表現方法の一つとして活用することが有効だ。自分の意見を書く力が付いて、進学の際に必要な自己アピールや論文などでもその力が発揮される。

 田上 楽しく、長続きすることが重要。学校現場では、やらなくてはならないことが多いので、無理をしないことが大事。教師自身が新聞を読んで感じた面白さや気付きなどを子どもたちに伝えると良い。教育的な効果で言えば2021年度の全国学力状況調査で「新聞を読んでいますか」という質問項目があった。この問いに対し「ほぼ毎日読んでいる」「週に1~3回読んでいる」と答えた、本県の中学3年生の割合は9・3%だった。一方で、学力全国上位の秋田県は17・3%と高く、石川県など学力レベルが高い県も同じ傾向だった。宮崎大会では、できるだけ多くの先生から、その実践と効果のエビデンス(根拠)を示してもらいたい。

表現力や読解力育成/押方

対話力の向上を実感/伊東

■進学への効果

 -大学入試など進学の場面でもNIEで身に付いた力は生かされるのか。

 押方 大学入学共通テストや大学個別入試での評価の仕方が変わってきている。根拠を示して、自分の考えや価値観をしっかり伝え、これからの世の中を創造していく力が求められていて、その力を高校でも育てる必要がある。その点において身近で非常に有用な教材の一つが新聞。新聞には自分が欲するもの以外にもさまざまな内容が含まれているし、論理的にまとめられた記事を参考にすることで表現力や読解力が養われる。

 田上 ここ2、3年で大学入試の大改革があった。知識や暗記のみで解答できる問題が減少し、思考力や判断力が重視されるようになってきた。細かい知識はスマートフォンで調べられる時代。知識を覚え込むのではなく、世の中の課題をさまざまなファクトとエビデンスを持って思考し、判断し、表現することが求められている。これは人工知能(AI)にはできないこと。学んだことを実社会で生かしていくことが期待されている。NIEで身に付いた力は当然、大学入試や高校入試でも生かされる。

 伊東 自校の生徒の例を挙げると(NIEの実践により)面接に強くなっている。高校入試の面接の練習は校長も参加するが、3年生は最初に結論、次に理由を話せるようになり、対話力の向上を実感している。高校入試問題や大学入学共通テストは情報量がとても多い。ゆっくり読んでいると解けない。NIEで要約する力、端的にポイントをつかむ力を鍛えると、質問の意図などが分かるので情報量が多い問題でも対応する力が身に付く。

具体的成果聞きたい/田上

新しい考え方知って/押方

仲間が増えてほしい/伊東

学校全体取り組みを/猪野

■大会に寄せる思い

 -NIE全国大会宮崎大会に寄せる思いは。

 田上 子どもたちの読解力や表現力を高めた実践発表と、NIEに取り組んだことによって伸びた力など、具体的な話を聞きたい。今後はデジタル時代における、学校での新聞活用の在り方について、もっと考えていく必要があると思っている。例えば、子どもたちが持っているタブレットを開くと、その日の新聞が自由に読めたり、調べ学習の時にキーワードを入力すると、過去の記事が検索できたりするなど、デジタルなら、もっと気軽に新聞を教育活動に使えるのではないかと思っている。

 伊東 宮崎大会ではNIEに取り組む子どもたちの姿を見られる。「NIEってやっぱりいいな」と、実感できる絶好の機会。そして「これなら自分でもできる」と、参加者のNIEに対するハードルが下がることを期待している。授業に新聞を使っていても「NIEはちょっと苦手で」と言う教員は多い。しかし、大会に参加して「これならば」と、NIEに取り組む先生が増えることを期待したい。あとは宮崎大会翌日の各社の報道がどうなっているかを楽しみにしている。

 猪野 いろいろな人が祭りみたいに、楽しいならやってみようかな、という気持ちになればいい。NIEの実践発表も質が高いと思う。見て「楽しそう、やってみたい」と思ってくれることが今後につながる。また参加した子どもたちにとって一生に残る思い出になるといい。学校だけでは社会は回らないし、学校だけで教育も回らない。いろいろな立場で社会を考えていく、きっかけになれば。

 押方 指導する教員も、生徒も心くすぐられる学び、新しい考え方を、大会の中で感じてもらえたら大成功ではないか。子どもたちが帰宅して、家族や地域の人たちに「楽しかった」と語れるような大会になればいい。そうすればNIEの認知度や理解度が高まるのではないかと考えてる。これからの学びの在り方で必要なことの一つに、教科融合とか文理融合というキーワードがある。これは国語、数学といった、単線的な学びではなく、それらを関連付けながら、または関連を見いだしたり、考えたりして思考を深められる学びが求められている。実際に文章だけではなく、図やグラフ、写真などそれぞれを関連付けて考える学びは既に進められている。新聞はあらゆるジャンルが載っているため、異質なものを関連付けて考えたり、表現したりする素材がふんだんにある。これを利用することで自分にしか持ち得ない考え方や力を身に付けるチャンスとなる。
 
 -県内のNIE活動がもっと活発になるためにはどのような取り組みが必要か。課題と今後の展望、期待することは。

 猪野 大切なことが三つある。一つは学校全体で取り組むこと。そして言葉の良さを伝えること、最後に大会に関わった人たちがNIEについて発信を続けていくことだと思っている。大会では参加者から「学校全体では(NIEに取り組んでいるか)どうか」と聞かれると思う。目指すところがあって学校全体で取り組むことが長く続くこつ。オールアプローチで取り組むことが大切。二つ目の言葉の良さというのは記事でも広告でも新聞にはいろいろな言葉がちりばめられている。情報として新聞を見るだけでなく、言葉の良さにも目を向けてもらいたい。大会は出発点。これを機にNIEの活動がじわりと広がっていく大会になれば。

 押方 小さな事柄から進めると良い。宮崎大宮高には「朝の読書の時間」があり、10分間文庫本や小説などを読んでいる。その時間を使って自分の好きな記事を紹介するなどの取り組みを始めてみてはどうかと考えている。実際に生徒たちが朝の連絡会時、順番に新聞記事を紹介している学級もある。

 伊東 大会を機にNIEの課題を共有できる仲間が増えることを期待したい。やはり何でも一人でやっては面白くないし続かない。大会で行われる公開授業や実践発表を見て仲間と感想を共有するのが大事。穂北中ではよくゲストが来て話や歌を披露してくれる。子どもに必ず感想を聞くが、「言葉が刺さった」などというコメントをするようになった。自分の胸に響いた言葉を記録していて、感想やコメントに使っているようでNIEの効果だと実感している。ハードルの低いことから持続可能な取り組みを続けることが大事だと考えている。

 田上 何事も成果が上がらないと人はやらない。また長続きしないと効果は得られない。実例を挙げると、毎月「14歳の君へ」という記事を読んで感想を生徒に書かせている。続けるうちに書くことに慣れてきて、書くことが苦にならなくなってきている。書くには読解力が必要で、その力もついてきている。月に1回でも良いので続けることが大事。

 -誰にでも取り組みやすいNIEとは。どの程度続けると効果が表われるか。

 猪野 「新聞からすてきな言葉を探そう」という取り組みは時間もかからなくて良い。1年続ければ成果は上がる。振り返りができる期間があるといい。

 伊東 小学校低学年には宮日こども新聞の「吹き出し大喜利」が良い。(教員向けのNIEワークショップをした際)特別支援学校の先生によるグループが、「夏」をテーマに花火やゾウが水浴びしている写真に吹き出しを付ける取り組みをしていて、良い事例だと感じた。ある中学校では週に1回記事の感想をまとめる取り組みをしていた。2カ月ほどすると、「おっ」と思うようなことを書ける生徒が出始め、成長が実感できる「ブレークスルー」があった。そして1年たつと、取り組み前と比べて明らかに成長を実感できるようになっていた。

 田上 1番簡単なのは記事を読んでその感想を書くこと。それを自分の口で、朝の会などの時に発表するのがお勧め。もう一つは新聞への投稿。宮崎日日新聞の「窓」欄や宮日こども新聞への投稿は掲載されたときに子どもが喜び、モチベーションも上がる。最低でも1年間は続けた方が良い。効果が上がっていると思うときがあるが、そこでやめずに続けることが大事。

 押方 1枚の新聞を渡して、その中でベスト記事を探し出して、生徒にプレゼンテーションさせると面白そうだ。高校生は感覚が分かるのが早い。NIEを続けるためには自分に有用性を感じると、どんどん進めると思う。半年なり、1年なり続けるのが重要。