幻となった『逃走中』“ゼロ号”のつるの剛士
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2004年の放送開始から今年で20周年を迎えた、フジテレビの人気ゲームバラエティ番組『run for money 逃走中』(以下逃走中)。幅広い層から支持され、世界中にファンを持つ人気コンテンツだけに、ゲーム・アニメ・舞台・書籍化され、22年にはNetflixで『逃走中 Battle Royal』として世界配信され大きな話題を集めた。そしてついに映画化となり、7月19日に『逃走中 THE MOVIE』が公開される。
【動画】『逃走中』20周年の歴史を振り返る映像
『逃走中』第1回の地上波放送は2004年10月1日。渋谷の街を舞台に、ウエンツ瑛士やKABA.ちゃん、ニコラス・ペタス(K-1)など9人の逃走者がハンターから逃げ回り、保坂尚輝が初代逃走成功者となった。しかし実はこれ以前に制作された、“ゼロ号”というべき幻の回が存在しているのはご存知だろうか。そのゼロ号=パイロット版が、BSフジの枠で2004年6月26日に放送されている。
「この回は今までオフィシャルには発信していません。昔、地上波でレギュラーが始まる前に、テスト的な意味合いで放送する枠がBSフジにあって、そこで放送したのが04年6月26日です。なので厳密にいえばこの日で丸20年なんです。ちなみにゼロ号も渋谷が舞台で、逃走成功者はつるの剛士さんでした」と、20年前にプロデューサーとして逃走中を立ち上げた笹谷隆司氏(現チーフプロデューサー)が初めて明かす。
本当の意味での“初代”逃走成功者・つるの剛士は、このパイロット版についてはっきりと覚えているという。
「新番組用の事前打ち合わせをやっている時、本当にこんな大掛かりな鬼ごっこができるのかとワクワクしたことが20年前。懐かしいです。当時自分がパーソナリティを務めていた深夜ラジオの生放送が朝5時に終わり、そのまま撮影現場の渋谷へ向かったのを今でも覚えています」
まさにテレビだからできる“あり得ない”こと。それが『逃走中』であり『逃走中』だけが生み出す“ワクワク”だ。誰もがやったことがない、街全体を使ったゲーム。なにからなにまでが“初めて”の撮影はどうだったのだろうか。
「早朝のリアルな渋谷の街を逃走エリアにしていたのも、今となれば驚きです。渋谷に着くと空撮ヘリが飛んでいて、スタッフの人数も多くてかなり大掛かりで驚きました。とにかく逃げ切ることだけに専念し、道玄坂近くのビルの合間にひたすら身を隠していました。カメラマンさんに『バレるから隠れて!』と乱暴なことを言ったような…(笑)。今考えると逃走していないので、とてもズルい作戦だったと反省しています。賞金もその場で手渡しでいただきました。封筒ごと持って帰りましたがマネージャーに『後日事務所に持って来い』と言われ、持っていきました(笑)」
20年間、このゼロ回の存在は明かされることなく、結果的に幻の回になってしまったが、名誉ある“初代”逃走成功者になったつるのは「その後、番組に数回出演させて頂くことはありましたが、周りから『つるのさんも「逃走中」に出てくださいよ~』と言われるたびに、『実は初回優勝は自分』と、密かに心の中で優越感に浸っていました(笑)」と語ってくれた。
つるのは、忘れられない番組のひとつとして今も『逃走中』にはひとかたならない愛情を持って接し、その存在の大きさを改めて感じているという。
「回を重ねる事に進化していき、これだけの長寿人気番組になるとは正直思っていませんでしたが現在、仕事の合間に非常勤講師として登園している幼稚園で、子どもたちが逃走中ごっこをしている姿を見ながら、改めて番組の偉大さを感じます。当時僕は29歳、今50歳目前ですが、まだまだ逃げ切れます。また是非出させてください!」
つるのが実感として語っているように、親から子世代へと新規ファンを開拓し続けていることがこの番組が20年間愛されている理由であり、強さだ。
笹谷氏は「小学生がコア層ではありますが、実はF2(35~49歳女性)、M2(35~49歳男性)層にも強くて、昔観ていた方が親世代になって、お子さんと一緒にまた観てくださっているんだと思います」と語る。
深夜枠からスタートし、プライムタイム、プライムゴールデン、ゴールデンへと美しいブレイク曲線を描いてきた『逃走中』。親子や家族で楽しめるコンテンツだからこそ、22年から2年連続でフジテレビの大晦日特番(6時間45分)、翌年には年越し番組(5時間30分)として放送されたが、番組がスタートとした当初は子ども達にウケるとは考えていなかったという。
「まずは自分達が楽しめるものを作ろうと思ったのがきっかけです。大人になるとドキドキがなくなるじゃないですか。一番ワクワク、ドキドキしたのって子どもの頃にやった追っかけっこや鬼ごっこだった、単純に無我夢中になれて一番楽しかったということに気づいたのです。会議では(現・番組監修の秋永真吾ディレクターほか番組立ち上げメンバーが参加)ハンターはもちろん、ライブ感を大事にするためにタイムのカウントダウンを入れるなどのアイデアが出て、逃走中が完成されていきます。
まず10代~20代の若い人にウケて、当時はmixiが流行っていてコミュニティがどんどんできていました。いつの間にか全国各地で知らない人同士によるお手製のリアルゲームが開催されていて、渋谷では深夜に数百人が集まったのを見て凄いことになっているなと思いました。ゴールデンでやることが決まって、その時に意外だったのが子ども達に刺さったことです。“心理逃走劇”と銘打っていて、欲と名誉と人間のいやらしい部分を剥き出しにするのが逃走中だったので、親御さんあんまり子どもに観せたくないんじゃないかなって思いました。もちろん『お金目的で走っているのは良くない』『子どもに見せたくない』という視聴者からの意見もありました。でもそれ以上に支持してくださる方が多くて、子ども達がみんな観てくれてどんどん話題になっていきました。『逃走中ごっこ』ってみんなが楽しんでくれて、つるのさんもおっしゃっていましたが、今でもやってくれているし、色々なカタチで派生して広がっているのが嬉しいですね」(笹谷氏)
『逃走中』はメディアミックスも加速している。ニンンテンドー3DSゲームは『戦闘中』と合わせて150万本を超える売上げを記録、19年には集英社みらい文庫でノベライズ化され現在までに11作品発表され、シリーズ累計約60万部、さらに遊べる絵本シリーズ(宝島者)も累計で16万部突破、昨年からはテレビアニメ化もされ、子ども達から圧倒的に支持されている。
またこれまでも各国で放送されていたが、22年にはNetflixで全世界配信され、海外でも認知され世界中で熱狂的ファンが存在している。
そして7月19日公開の『逃走中 THE MOVIE』はJO1の川西拓実、木全翔也、金城碧海、FANTASTICSの佐藤大掛、中島颯太、瀬口黎弥が出演するほか、芸能人逃走者としてHIKAKINN、津田篤宏(ダイアン)、長谷川雅紀(錦鯉)、クロちゃんらが本人役で出演する。
「今回、ドラマ映画制作部の高田雄貴プロデューサーから逃走中の映画化の話があり、昔からの大きな目標でもあったドラマ映画が実現してとても嬉しいです。ただ、番組の延長線上で映画にしてしまうと面白くないと思っていたので、番組では見られない存在や番組では表現しきれない感情を『デスゲーム』を通じて見せられたことで今までにない逃走中になったと思います。ハンターが登場するシーンは何度観てもゾクッとするし、20年携わってきた自分が観ても感動しました。高校の陸上部の仲間が少し大人になってから絆を取り戻していく友情物語ですが、ゲーム中に出会った人たちとの絆もしっかり描かれていて、メッセージ性もあり見応えのある作品になっています」
笹谷氏にはさらに『逃走中』の未来予想図がある。
「将来的にはワールドカップやオリンピックのように世界中の方々が一緒に参加できる逃走中ワールドゲームを実現させたいです。それと『リアルにハンターに追いかけられたい』という声も多くいただくので、出来るだけたくさんの子どもたちがケガに注意し、ワーワーキャーキャー言いながら心から楽しんでもらえるようなイベントもやれたらうれしいですね」。
(編集:田中)
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