鷹司(瀧内公美)、儀助(長塚京三)=映画『敵』(2025年1月17日公開)
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俳優・長塚京三の12年ぶりの映画主演作『敵』が、1月17日に全国公開される。
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小説『虚人たち』で泉鏡花文学賞を、『夢の木坂分岐点』で谷崎潤一郎賞、『ヨッパ谷への降下』で川端康成文学賞を受賞するなど受賞歴多数、『時をかける少女』等でも知られる筒井康隆氏の同名小説を、『桐島、部活やめるってよ』『騙し絵の牙』の監督・吉田大八が、あえてモノクロ映画に仕上げた。
主人公は、渡辺儀助、77歳。元大学教授で今はリタイアし、妻に先立たれている彼は、朝起きる時間、食事、衣類、使う文房具一つに至るまでを丹念に扱い、預貯金の残高と生活費があと何年持つかを計算し、自分の寿命を知る。そんな儀助の元にある日「敵」が現れる。
本作の魅力のひとつとも言えるのが、20年間一人暮らしの主人公・儀助(長塚)と、物語のキーとなる3人の女性たちとの関係性。物語が進むにつれて、亡き妻・信子(黒沢あすか)、大学時代の教え子・鷹司靖子(瀧内公美)、行きつけのバーでアルバイトをする菅井歩美(河合優実)によって儀助の内面がつまびらかにされていく。
長塚は自身の演じる儀助について、3人の女性によって「インテリ特有の小心さや、狡猾さみたいなものがにじんでくる」と語る。亡き妻・信子と儀助の関係については「もうひとつ愛しきれていなかった部分があって、約束したパリに連れていかなったことは大きい」と、あるシーンに触れながら言及。「きっと(儀助は)相手を見て判断したところがある。どうせ真髄を味わえないだろうと。やっぱり思い上がっていますよ、儀助は!」と自身が演じた儀助を分析する。
元教え子・鷹司やバーで働く菅井との関係については、「教え子の靖子の恋愛相談に乗って力になろうとしたり、大学生・歩美の滞納している授業料を心配したりと、懐の深いところを見せようとするけれど、相手のことを慮(おもんぱか)っていたのかはわからない。実はお為ごかしで、下心があったのかもしれないし、余計なお節介だったのかもしれない…観客の皆さんはどう受け止めてくださるのでしょうか」と、女性に対してとる儀助の行動の真意を想像しながら笑って見せた。
本作の肝とも言うべきこの3人の女性たちのキャスティングについて、吉田監督は、「瀧内さんは撮影初日に衣装でカメラ前に立ったときから、圧倒的な“靖子感”だった。河合さんも、彼女らしい聡明さで僕の想像を超えた歩美を軽やかに創ってくれた。黒沢さんは以前からそのスケールの大きさに日本人離れしたものを感じていて、信子の複雑な儚さを強烈に表現してくれたと思う」と太鼓判を押す。
そんな魅力あふれる役柄を演じきった女性キャスト3人は、長塚との共演について次のように語っている。夫婦という立場を演じた黒沢は「横に座ったときに、 なんて自分がクリアになってくんだろうという空気清浄機で浄化されていくような感覚。至福の時だった」と自身の感じた“長塚京三効果”を振り返った。
瀧内は「皆さんへの接し方や立ち居振る舞いを拝見して、非常に勉強になるところがあった。本質をついていらっしゃるので、すごく胸に刺さる。日本の宝となる大先輩の俳優とご一緒させてもらったのだと感じた」と恐縮した様子。
河合も「長塚さんの表現を観に行くだけで、敵を観る喜びがあるんじゃないかっていうぐらい見惚れていた。お芝居させてもらった時も、台本に書いてあるせりふがもう終わったけど、少しの間カットはかからない時の儀助が強烈に印象に残っていて、そのときの目が忘れられない。私がイメージしていた儀助という人と長塚さんを重ねて見てしまった」と語っている。
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