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【コトバのチカラ】「柔道を通じ、日本人の底力を見せたい」柔道 井上康生さん

2020年1月1日

監督として2度目の五輪は自国開催。プレッシャーを感じつつ「言い訳は無用」。強い覚悟でチームを引っ張る

「柔道を通じ、日本人の底力を見せたい。
自国開催の重圧はあるが、言い訳は無用だ。」


 「責任と自覚を持って戦う」。国民の期待を一身に背負う柔道家はこの言葉を繰り返した。リオデジャネイロ五輪に続き、東京大会でも男子代表を束ねる本県出身の井上康生監督(41)。“国技”の威信を懸け究極の目標「全階級金メダル」へまい進する。表彰式で母・かず子さんの遺影を掲げたシドニー五輪金メダルから20年。どのような思いで今も戦い続けているのか、聞いた。(神奈川県平塚市の東海大湘南キャンパスで)

 -東京五輪まで半年ちょっと。代表争いは大詰めを迎えた。(昨年の)世界選手権は73キロ級で大野将平選手(27)=旭化成、66キロ級は丸山城志郎選手(26)=ミキハウス、宮崎市出身=が優勝し、グランドスラム大阪(GS大阪)では5階級制覇した。「全7階級制覇」を掲げる東京への手応えは。

 「全階級金」の難しさは重々承知しているが、選手は高い志を持ち、全力で戦っている。私はそれを信じ、共に戦っていく。どんなに成果を上げようが、収穫があろうとも、いろんな課題が見え、危機感しかない。勝負ごとに100パーセントはない。やるべきことをやって、本番で戦うのみだ。

 -代表争いはここにきてベテラン勢が巻き返してきた。

 代表争いが混沌(こんとん)としてきたのはうれしい悲鳴。前回リオデジャネイロ五輪に出場した選手たちが存在感を示してきたことを頼もしく思う。誰が代表になっても、自覚と責任を持って戦い抜くだけだ。最高の成績をつかめるように、そして応援されるチームになるように全力を尽くす。

 -初監督を務めたリオ五輪で全階級メダル獲得の快挙を成し遂げた。引き続いて指揮を執り、約3年半が経過。心境の変化はあるか。

 五輪で成功を収めたいという思いに変わりはない。日本の伝統的スポーツである柔道を通じ、日本人の底力を見せたい。近年、数多くの災害が発生し、苦しんでいる方々がたくさんいる。勇気や元気を与えたい。自国開催の重圧はあるが、言い訳は無用だ。

 -リオの後に「まだまだやることがある」と語っていた。東京に向け、新しく取り組んできたことは。

 選手層をもっと厚くする必要があった。そういう面では、ここまで選手たちが代表争いする環境をつくったことは、逆に言えば世界で戦える選手が増えてきたという証拠ではないか。4年に1度改正されるルールに対応する分析、検証にも取り組んできた。筋量や力を測ると海外選手の方が高いが、日本人はしなやかで繊細、機敏に動くことができる。そして忍耐強く、緻密で勤勉、実直だ。こういう自分たちの強みを認識した上で、世界で勝つためには何が必要かを考えてやってきた。

 -代表選手に茶道や陶芸、書道、自衛隊の体験入隊などを課していた。我慢強さなどを培うためか。

 おっしゃる通り。自衛隊体験は精神論、根性論以外何ものでもない。午前2時ごろにたたき起こされて、10キロの荷物を持って行進したり、竹と水と米を渡されて自分たちで朝食を作ったりした。予期せぬことが起こるわれわれの世界は、根性がないと戦い抜けない。陶芸では指先の繊細さや、自分にしかできない形を味わってもらいたいと思った。われわれは柔道のスペシャリストだが、その枠から外れた発想や想像力を身に付けることが大事だ。世界一を目指す集団として、この突き抜けた感覚を磨く取り組みを行った。

 -練習後、会場のごみ拾いを徹底させていると聞く。

 練習しているのではなく、させてもらっているという部分がある。当たり前のことを当たり前にできることに感謝しなければならない。強さを求める上で必要なことだと感じている。柔道を通じ、社会に貢献できる人間に成長するかが、究極の目標でもある。そういう目線からも活動している。

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