ホーム 宮崎のスポーツ 特集

特集

一覧

【コトバのチカラ】「努力は無駄にならない」競泳 松田丈志さん

2020年5月16日

2012年のロンドン五輪競泳男子200メートルバタフライで、2大会連続の銅メダルを獲得した松田丈志さん

「努力は無駄にならない」

 新型コロナウイルスの影響で、県内中高生アスリートが目標にしてきた全国、九州大会が軒並み中止となった。加えて、先日に県高校総体(県総体)の中止も決まり、輝きを放つために努力してきた多くの高校生が落胆した。そんな選手たちの力になろうと、競泳男子で五輪3大会連続メダリストの松田丈志さん(35)=延岡市出身=が電話取材に応じ、数々の逆境を乗り越えてきた自身の経験を踏まえながらエールを送った。

未来を見据えて歩んで
 
 -全国大会や県大会などが中止となり悔しい思いをした中高生に、何と言葉を掛けたいですか。

 時間をかけて努力して培ってきた技術や体力を発揮する舞台がなくなり、やりきれない思いがあるでしょうね。特に大きな区切りとして迎えるはずだった中学3年生や高校3年生のショックは大きかったと思います。最後の大会に出場できなかったことは心残りというか、喪失感を感じているのではないでしょうか。

 僕は延岡東高(現延岡星雲高)1年の時、県総体、全国高校総体(インターハイ)には出場しましたが、その後に延岡学園高へ転校したため、県高体連の規定で2年時は県総体、インターハイともに出場できませんでした。3年時も国際大会と重なりインターハイは出ていません。ただ、僕には国際大会や国体など、違う大会で努力を披露する舞台がありましたので、今回はよりつらい状況だと思っています。皆さんもここまで目標を掲げ、頑張ってきたと思います。仲間との思い出もたくさんあることでしょう。これまでの努力は、決して無駄にはなりません。先の人生で必ず生かされるはずです。

 自分が高校1年で転校したときに考えたのは、目の前の大会よりも「将来、水泳選手として必ず成功する」ということでした。今、自分の10年、20年後を考えて生きていってほしいです。
 
 -高校3年生の中には県総体の中止を機に、競技を引退する選手もいます。
 
 僕の高校生活は、ほとんど水泳に費やしてきました。修学旅行には行かず、文化祭にも参加していません。水泳で生きていく覚悟を持っていたから、できたことだと思います。

 延岡学園高では、野球部や柔道部、バレーボール部、バスケットボール部で頑張っている選手が周りにたくさんいました。学校で互いの競技の話をしながら、励まし合っていたことを覚えています。その仲間たちが最後の試合に出場できないと想像すると耐えられません。競技に懸けて県外からきた選手も大勢いました。
 ただ、スポーツを通して努力してきたことや身に付けたものは、ゼロにはなりません。今でもそう感じています。時間の経過とともに、最後の大会がなくなったことも一つの思い出になると思います。中止になってしまったことは変えられません。それを自分たちの中でどうプラスに消化するか、ということを考えていってほしいです。

過去の自分 超えてほしい

 -松田さんは多くの苦難を乗り越え、世界の舞台で輝きました。
 
 過去の自分に挑戦して過去の自分を超えていく-。そこにスポーツの素晴らしさがあると思います。僕が練習していたプールは屋根がビニールハウスで、決して恵まれた環境ではありませんでした。ただ、どんな環境でも常に結果を出してやるという反骨心を持っていました。
 今はネットワークが進化し、すごく情報が得やすい社会になっています。スポーツに関して言うと、地方でも力を伸ばす練習メニューを簡単に入手することができます。僕が高校生の頃は、全国大会や日本代表として海外に行った際に、どんどん自分から情報を学んで、それを持ち帰り、地元で鍛えるという気持ちがありました。「Think Global, Act Local」。僕の好きな言葉です。

 これから先、目標にしているのは、現役時代に水泳に注いだエネルギーと同じくらい、今の仕事に打ち込んでいくことです。努力している自分が好きだし、これからも自分を向上させたいと思っているからです。水泳を通じて徹底して自分と向き合い、自分を磨いてきたつもりです。「自己研さん」は現役時代で終わりではなく、生涯を通じてやっていくことだと考えています。
 
 -2009年にスポンサー契約を打ち切られ、その窮地を乗り越えてロンドン、リオデジャネイロ五輪でメダルを獲得しました。
 
 スポンサーが決まらない時期は、先行きが見えず、泳ぐ意味があるのか自問自答していました。ただ、久世由美子コーチに「いつチャンスがくるか分からない。今できることをしっかりやろう」と言われ、光が差す日が来ると信じて泳ぎ続けました。

 約1年の空白があり、コスモス薬品と地元の後援会がサポートを申し出てくれました。その間、トレーニングだけは欠かしませんでした。

 その経験を踏まえて思うのは、いつでもチャンスをつかむのは事前に準備をした人。部活動ができない中学生や高校生、最後の大会がなくなった高校3年生にも同じことが言えると思います。

 苦しい状況だけど、次の追い風が吹くときに向けて、アクションを起こしてほしい。ふさぎ込んでいる人が多いときほど、先に動きだした人はチャンスになるはずです。この瞬間に自分と向き合い、今後の自分を想像してほしいです。
 
 -最後に、中高生を勇気づけるメッセージをお願いします。
 
 これまでの努力は、大きな財産になると思います。目標に向かって自分自身の精神的な部分、身体的な部分でキャパシティーを広げてきたことは、一生懸命に部活と向き合った証拠。それは絶対的に無駄にはならないと思います。

 これから先、それぞれ違う目標に向けて歩んでいくかもしれません。自分にとって何が一番大切なのか、何をしたいのか考えることが重要です。時間は常に減っていくので、それを少しでも自分のやりたいことに使えるように自分自身を導いてくれたらうれしいです。この経験を絶対にプラスに変えてくれると信じています。

このほかの記事

過去の記事(月別)