自宅近くの門川町の漁港で両親と談笑する黒木理帆選手(中央)=昨年12月
「諦めなくてよかった」
「諦めなくてよかった。いつも応援してくれる家族のおかげ」。東京五輪7人制ラグビー女子の黒木理帆選手(23)=アルカス熊谷、門川町出身=は、感謝の言葉を口にする。6月末の代表発表で落選し、バックアップメンバーとしてチームに帯同。母・理久子さん(56)から言われたように「可能性を信じて」アピールし続け、選手の負傷離脱で五輪切符を手にした。
ラグビーをしていた兄の影響で門川中1年から競技を始めた。2年のとき、九州選抜で出場した全国大会で活躍。「日本代表」を目指し、練習熱が高まった。
「日向ラグビースクール」と「宮崎レディース」の活動がない日は、漁師の父・清広さん(65)が練習相手をしてくれた。漁港でパスをしたり、ランニングのタイムを測ってもらったり。網を沈める鉛で「鉄アレイ」を作ってもらい、腕の筋肉を鍛えたこともあった。「当時から五輪を目標に一生懸命頑張っていたので、夢をかなえてやりたかった」と清広さん。
本県は女性選手が少なく同世代と競わせようと、母・理久子さんは月に数回、娘を福岡のチームの練習に連れていった。車で往復6時間半ほどかかったが、苦ではなかったという。テニスで全国高校総体出場経験を持つ理久子さんは「やるからには上のレベルを目指してほしかった」と語る。
石見智翠館高(いわみちすいかんこう)=島根=、立正大(埼玉)で着実に力を付けた黒木選手。縦への突破が武器のセンターとして、2018年アジア大会で日本の初優勝に貢献。表彰台から見た光景に感動し「東京」を強く意識した。
合宿の多い娘を励まそうと、清広さんが取ったカマスやアジの干物が送られてきた。魚好きで、大学時代はチームメートらと一緒に食べていた黒木選手は「とてもおいしくて、元気をもらっている」。理久子さんとは今でも頻繁に電話するという。「家族にいい報告がしたいという思いがあるから、いつも練習を頑張れる」と打ち明ける。
東京五輪の1次リーグで日本は29日午前10時半からオーストラリア、同午後6時から米国と対戦する。「メダル獲得が目標。力を出し切れば結果はついてくる」。大舞台での活躍が、支えてくれる家族への恩返しになる。
(2021年07月29日付紙面より)