【男子81キロ級決勝】モンゴルのサイード・モラエイ(下)を破り、優勝した永瀬貴規=日本武道館館
「五輪の借りは五輪で返す」
「悔しい」銅メダルを首に掛け、下を向いてばかりだったリオデジャネイロ五輪から5年。男子81キロ級の永瀬貴規(旭化成)が東京で雪辱を果たし、一番高い表彰台に上がった。「(会場)全体を眺めて、気分が良かった」。努力の証しである金メダルに触れ「輝いている」と喜びをかみしめた。
誰が優勝してもおかしくない激戦階級で、永瀬の世界ランキングは13位。初戦で同4位と当たるなど、強豪との対戦が続いた。「どんな勝ち方でもいい」。とにかく組み手を妥協せず、無理に攻めなかった。試合が膠着(こうちゃく)状態となるのは計算済みで、指導二つを取られても慌てない。「嫌がることを最後までやり通す、しつこさが自分の武器。途中から相手は嫌になってくる」。いずれも延長となった準々決勝、準決勝は、相手が疲れたところで技ありを奪う。決勝も同じ展開。延長1分43秒、「自分のターンが来た」と鮮やかな足車で勝負を決めた。
力を出し切れなかったリオ大会以降、「人間性を高める」ことにも取り組んだ。欧州への単身武者修行で、自ら率先して行動する大切さを学んだ。コロナ禍の自粛期間中は、元プロ野球選手で三冠王にも輝いた落合博満氏らの著書を読み、自分のスタイルを貫くことの重要性を感じ取った。
「五輪の借りは五輪で返す」。その信念できつい稽古に耐え、2017年の右膝手術も乗り越えてきた。高校からこだわってきた組み手で「銅」を「金」に“昇華”させた27歳は、「つらい時間の方が多かったけど、やってきてよかった」と感慨に浸った。
(2021年07月28日付紙面より)