【連載企画】脅威(5)
2011年3月6日
■住民の避難/納得いく判断根拠を
霧島連山・新燃岳(1421メートル)の土石流対策で、住民の人命や安全を守るために発令される避難勧告は、住民に避難生活という疲弊を強いるものでもある。「避難してほしい」「今、避難すべきなのか」―。雨のたびに不安が高まる土石流をめぐり、行政も住民も揺れ続けている。
避難勧告の目安となる雨量基準。都城市が「1時間4ミリ以上」から「10ミリ以上」へ基準を引き上げた4日、避難誘導の先頭に立つ勧告対象地区の公民館長から安堵(あんど)の声が上がった。夏尾町牛の脛地区公民館長の山角一さん(68)は「これまでの基準だったら、梅雨時期は家に帰る暇はなかっただろう」と見直しに理解を示した。
「いざというときに住民が避難しないのではないか」。西岳11地区の公民館連絡協議会(坂元和雄連協長)は連続して発表された避難準備情報発表を危惧し、2月15日に基準緩和を市に求めた。対象だった西岳地区と山田町の一部の自主避難者は10日の79人から13日の26人に減少。17日に初めて発令された避難勧告では125人が避難、そのほかに親類宅に身を寄せた高齢者もいたが、「住民が自己判断で避難しなくなっていた。説得する公民館長も苦労していた」(坂元連協長)という。
雨量基準は一つの尺度。「地形によって異なる土石流の危険性を網羅しているのか」。数字では割り切れない住民感情との板挟みに悩む公民館長もいる。
危険渓流の荒川内川に沿って家が立ち並ぶ高野町荒川内地区。地区公民館長の野間登志子さん(54)は「10ミリ以上」に基準引き上げ後、「空振りを少なくするためだけの基準ではいけない。1回の危険を回避するために、住民の負担を考えても譲らない覚悟と納得できる根拠で避難を指示してほしい」と市に求める。
2月28日未明には各地で10ミリ前後のやや強い雨が降り、旧基準を上回ったが、市は「雨量予測などを総合的に判断した」と避難準備情報を出さなかった。市からの連絡がないまま、27日夕から「不安な人は親類宅に避難してほしい」と独自に有線放送で呼び掛けた野間さん。「負担が大きい高齢者を避難させるのだから、説得する私たち自身も納得できるよう対応してほしい」
地域では自ら災害について学ぶ動きが始まっている。西岳地区公民館連絡協議会は今月13日、雲仙普賢岳や三宅島の噴火体験者や火山専門家を招く「車座トーク」を開催する予定だ。被災地のネットワークを生かし、土石流など災害経験を参考に今後の備えに役立てる狙いがある。
「ここでみんな生きていくんだ」。坂元連協長はそう強調する。土石流の恐怖は高齢化率が50%を超える地域に不安を植え付けたが、逆に結束力を高めるきっかけにもなった。梅雨を控え、どう脅威に立ち向かうのか、住民の模索は続く。(おわり)
霧島連山・新燃岳(1421メートル)の土石流対策で、住民の人命や安全を守るために発令される避難勧告は、住民に避難生活という疲弊を強いるものでもある。「避難してほしい」「今、避難すべきなのか」―。雨のたびに不安が高まる土石流をめぐり、行政も住民も揺れ続けている。
避難勧告の目安となる雨量基準。都城市が「1時間4ミリ以上」から「10ミリ以上」へ基準を引き上げた4日、避難誘導の先頭に立つ勧告対象地区の公民館長から安堵(あんど)の声が上がった。夏尾町牛の脛地区公民館長の山角一さん(68)は「これまでの基準だったら、梅雨時期は家に帰る暇はなかっただろう」と見直しに理解を示した。
「いざというときに住民が避難しないのではないか」。西岳11地区の公民館連絡協議会(坂元和雄連協長)は連続して発表された避難準備情報発表を危惧し、2月15日に基準緩和を市に求めた。対象だった西岳地区と山田町の一部の自主避難者は10日の79人から13日の26人に減少。17日に初めて発令された避難勧告では125人が避難、そのほかに親類宅に身を寄せた高齢者もいたが、「住民が自己判断で避難しなくなっていた。説得する公民館長も苦労していた」(坂元連協長)という。
■ ■
雨量基準は一つの尺度。「地形によって異なる土石流の危険性を網羅しているのか」。数字では割り切れない住民感情との板挟みに悩む公民館長もいる。
危険渓流の荒川内川に沿って家が立ち並ぶ高野町荒川内地区。地区公民館長の野間登志子さん(54)は「10ミリ以上」に基準引き上げ後、「空振りを少なくするためだけの基準ではいけない。1回の危険を回避するために、住民の負担を考えても譲らない覚悟と納得できる根拠で避難を指示してほしい」と市に求める。
2月28日未明には各地で10ミリ前後のやや強い雨が降り、旧基準を上回ったが、市は「雨量予測などを総合的に判断した」と避難準備情報を出さなかった。市からの連絡がないまま、27日夕から「不安な人は親類宅に避難してほしい」と独自に有線放送で呼び掛けた野間さん。「負担が大きい高齢者を避難させるのだから、説得する私たち自身も納得できるよう対応してほしい」
■ ■
地域では自ら災害について学ぶ動きが始まっている。西岳地区公民館連絡協議会は今月13日、雲仙普賢岳や三宅島の噴火体験者や火山専門家を招く「車座トーク」を開催する予定だ。被災地のネットワークを生かし、土石流など災害経験を参考に今後の備えに役立てる狙いがある。
「ここでみんな生きていくんだ」。坂元連協長はそう強調する。土石流の恐怖は高齢化率が50%を超える地域に不安を植え付けたが、逆に結束力を高めるきっかけにもなった。梅雨を控え、どう脅威に立ち向かうのか、住民の模索は続く。(おわり)