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新燃岳噴火

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【連載企画】脅威(4)

2011年3月5日
■首長の判断/避難知識乏しく苦悩

 霧島連山・新燃岳(1421メートル)の噴火が本格化していた1月30日、高原町に「直径数十メートルだった溶岩ドームが500メートルに成長している」との連絡が県から入った。日高光浩町長は、激しい爆発音とともに噴火し、時には火柱を上げる光景を目の当たりにしている。「火砕流の危険がある。状況を見ているいとまはない」。同日深夜、対策本部会議を経て初の避難勧告発令に踏み切った。

 「過剰反応」。内閣府の担当者は、噴火警戒レベル3(入山規制)で町が避難勧告を出したことに首をかしげた。しかし、噴火の恐怖におびえる町民を見てきた日高町長は「あの時に避難勧告を出さずにいつ発令するのか」と今も自身の判断を信じている。

 日高町長が火砕流発生の恐れがなくなったなどとして避難勧告を全面解除したのは2月15日だった。

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 災害対策基本法は、避難勧告発令の権限を持つ者を「市町村長」と定める。ただ、首長は専門知識のない“素人”。命の重さを考えれば発令をためらう理由はないが、乱発は避難住民に負担を強いる。日高町長同様、都城市の長峯誠市長も、こうした難しい判断を迫られてきた。

 市は当初、時間雨量4ミリ以上の「予測」で土石流発生に備えた避難準備情報を3回出し、住民はその都度避難所へ駆け込んだ。基準を「実測」としていた高原町が一度も出していないこともあり、「出し過ぎだ」との批判も招いた。

 市は2月25日、基準を時間雨量4ミリ以上の「実測」に変更。住民の声に押された形にみえたが、長峯市長は国交省などとの協議を経て見直してきたことを強調する。3月4日に避難勧告発令基準を「1時間雨量10ミリ以上が予測されたとき」と変更したのも、国交省の見直しを受けた結果だった。

 長峯市長は今後の基準見直しについて「国が10ミリ以上というのに市単独で15ミリ以上に上げることは考えづらい」といい、市民の命を預かりながらも判断を国に委ねざるを得ない実情も垣間見えた。

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 「首長は悩みながらも住民の生命を第一に考えて避難勧告を発令する。信じてほしい」。大火砕流で43人が犠牲になった雲仙・普賢岳の北東にある島原市で、1992年から市長を4期務めた吉岡庭二郎さん(74)は訴える。

 普賢岳は90年11月に火山活動が活発化し、96年6月に終息宣言。犠牲者こそ出なかったが、100戸以上が全半壊した土石流も発生。同市によると、降雨に伴う避難誘導は長崎海洋気象台の注意報・警報に基づいて出した。

 普賢岳では火砕流が9432回確認されている。このため、住民の危機意識は高く、避難率は100%に近かったという。吉岡さんは「早めの避難が鉄則。空振りであっても、被害が出ないのは幸せなこと」と持論を述べ、長峯市長と日高町長の苦労をおもんばかった。