続く土石流不安 低い避難率、油断禁物
2011年5月3日
火山灰が積もった霧島連山・新燃岳(1421メートル)周辺で、降雨のたびに懸念されるのが土石流。これまで被害は確認されていないが、取材した専門家たちは異口同音に「土石流の危険は長期的に続く」と警鐘を鳴らす。梅雨の到来を前に対策は万全か。土石流発生の恐れがある渓流沿いと下流の集落を歩いた。(報道部・岩切康一朗)
「ガガガッ」。山あいの静けさを重機のけたたましい音が切り裂く。新燃岳から南に7キロの荒襲川上流を訪ねると、大きな土のうが堤防のように高く積まれた工事現場があった。水のない川にたまった土砂や岩が取り除かれる。川底はほとんど見え、傍らには取り除いた直径2メートル大の岩がごろごろ。土石流は、この巨大な岩も簡単に押し流す。
国土交通省は都城市、高原町の13カ所で同様の緊急対策工事を進行中。荒襲川上流で取り除いた土砂量は約1万立方メートル(10トントラック1500台分)。同省宮崎河川国道事務所の鶴崎秀樹副所長は「土石流は灰が流れて終わりではなく、灰があると水の流れが速くなり、浸食が進むため長期化の恐れもある」と指摘する。
荒襲川を下ると避難対象地域の吉之元町。農業冷水稔子さん(74)がうっすらと灰色がかった新燃岳を眺めていた。「雨の次の日はあの灰色が薄くなって山肌が見える。火山灰が下に流れてきている証拠」。毎朝、新聞で天気予報を確認するのが日課で、雨の日は不安でたまらない。「普段は美しい山だが、今はやっぱり憎いね」
新燃岳の本格的噴火から約3カ月。都城市はこれまで避難準備情報を4回発表、勧告を2回発令した。この間、東日本大震災が発生し「自然の脅威を目にし、震災後は素直に呼び掛けに応じる人が増えた」(荒川内自治公民館・野間登志子館長)との声がある一方、避難率の低さは依然課題。同市は住民の負担を軽減するため、避難対象世帯数を約7割減らしたが、4月27日の勧告で避難所に行ったのは対象の316世帯692人のうち、16世帯22人。親類や友人宅に身を寄せた人の数を考慮しても、心もとない数字だ。
その日避難所への避難者がいなかった夏尾町。噴火直後に一面を埋め尽くしていた灰はほとんどない。川沿いに住む60代女性は「噴火も落ち着いているし、勧告が出ても土石流が発生しないことが多い」と避難しなかった理由を語る。日常生活が戻りつつあることと、危機感の薄れは表裏一体なのだろうか。今後梅雨を迎えると、土石流の危険性が増大するのは確実。住民への注意喚起の必要性を肌で感じた。
【写真】火山灰を入れた土のうが堤防のように積まれた都城市荒襲川上流。除石工事も急ピッチで進んでいた
「ガガガッ」。山あいの静けさを重機のけたたましい音が切り裂く。新燃岳から南に7キロの荒襲川上流を訪ねると、大きな土のうが堤防のように高く積まれた工事現場があった。水のない川にたまった土砂や岩が取り除かれる。川底はほとんど見え、傍らには取り除いた直径2メートル大の岩がごろごろ。土石流は、この巨大な岩も簡単に押し流す。
国土交通省は都城市、高原町の13カ所で同様の緊急対策工事を進行中。荒襲川上流で取り除いた土砂量は約1万立方メートル(10トントラック1500台分)。同省宮崎河川国道事務所の鶴崎秀樹副所長は「土石流は灰が流れて終わりではなく、灰があると水の流れが速くなり、浸食が進むため長期化の恐れもある」と指摘する。
荒襲川を下ると避難対象地域の吉之元町。農業冷水稔子さん(74)がうっすらと灰色がかった新燃岳を眺めていた。「雨の次の日はあの灰色が薄くなって山肌が見える。火山灰が下に流れてきている証拠」。毎朝、新聞で天気予報を確認するのが日課で、雨の日は不安でたまらない。「普段は美しい山だが、今はやっぱり憎いね」
新燃岳の本格的噴火から約3カ月。都城市はこれまで避難準備情報を4回発表、勧告を2回発令した。この間、東日本大震災が発生し「自然の脅威を目にし、震災後は素直に呼び掛けに応じる人が増えた」(荒川内自治公民館・野間登志子館長)との声がある一方、避難率の低さは依然課題。同市は住民の負担を軽減するため、避難対象世帯数を約7割減らしたが、4月27日の勧告で避難所に行ったのは対象の316世帯692人のうち、16世帯22人。親類や友人宅に身を寄せた人の数を考慮しても、心もとない数字だ。
その日避難所への避難者がいなかった夏尾町。噴火直後に一面を埋め尽くしていた灰はほとんどない。川沿いに住む60代女性は「噴火も落ち着いているし、勧告が出ても土石流が発生しないことが多い」と避難しなかった理由を語る。日常生活が戻りつつあることと、危機感の薄れは表裏一体なのだろうか。今後梅雨を迎えると、土石流の危険性が増大するのは確実。住民への注意喚起の必要性を肌で感じた。
【写真】火山灰を入れた土のうが堤防のように積まれた都城市荒襲川上流。除石工事も急ピッチで進んでいた