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【番外編】漁師たちの憂い~県内漁業は今(1)南方漁場

2011年10月28日
■大型船カツオ“乱獲” 黒潮ルート回遊激減

 近海カツオ一本釣り漁も終盤戦に入った10月中旬。後方に富士山を望む焼津港(静岡県焼津市)に、349トンクラスの大型巻き網船5隻が係留されていた。気仙沼港(宮城県気仙沼市)を拠点に三陸沖で操業中の本県の一本釣り船(119トンクラス)と比べて一回りも二回りも大きい。主漁場はフィリピン沖合に広がる南方漁場。カツオが繁殖するこの海域では近年、各国の船が激しい漁獲競争を繰り広げている。

■近海一本釣り存続危機

 国際水産資源研究所(静岡県)によると、南方漁場を含む中西部太平洋のカツオ漁獲量は1970年代までは多い年で40万トン。ところが、80年代以降は各国の大型巻き網船が台頭し、2009年には当時の過去最高となる182万トンを記録した。現在も韓国や台湾、アメリカなどがしのぎを削り、船は760トンクラスが標準。魚群を見つけるためヘリコプターを搭載した船まで登場した。

 最大の原因は、世界的な魚食ブーム。カツオの多くが「ツナ缶」の世界的な生産基地となっているタイに送られ、世界中に輸出されているという。日本国内でも、安売りの「ツナ(マグロ)缶」は多くの中身がカツオだ。

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 南方漁場での漁獲競争は、どのような影響を及ぼしているのか。県水産試験場によると、本県の一本釣り漁は、南方漁場で各国の船が漁場を拡大するのに合わせるように1980年代から減少。2009年は1万2955トンと戦後最低水準の大不漁となった。

 09年の不漁について茨城大地域総合研究所の二平章客員研究員は「南方漁場の黒潮源流域から宮崎の沿岸部を通り三陸沖へと至る黒潮ルートの魚が特に少なかった。原因は大型巻き網などの漁獲で、源流域のカツオ資源が空っぽになっている」と分析する。

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 南方漁場から約2200キロ離れた宮崎市青島港では、本県沿岸で漁をする引き縄漁師の束尾和美さん(47)=同市折生迫=が釣り上げた小さなカツオを見ながら「油代にもならん」とつぶやいていた。宮崎市漁協によると、03年にはカツオを中心に148トンあった引き縄の漁獲量は、10年には21トンへ激減。束尾さんは「昔は海鳥(カツオ資源の指標)が目に入るぐらいにたくさんいたが、今ではほとんど見ない」と嘆く。

 二平研究員は「今後は一本釣りも09年のような大不漁が頻発する可能性がある」と指摘。「数の減ったカツオが本能的に繁殖を早めようと、三陸沖に到達する前にUターンすることも考えられる。そうなると戻りガツオも少なくなるかもしれない」と警鐘を鳴らす。

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 本県のカツオ一本釣り漁は今年、東日本大震災で気仙沼港をはじめとする東北の操業基地が被災したことで、水揚げが激減している。しかし、漁業を取り巻く状況は震災以前から厳しさを増していた。カツオ漁を中心に本県漁業の現状をリポートする。

【写真】南方漁場で漁獲したカツオやマグロを水揚げする349トンクラスの大型巻き網船。他国船は760トンクラスが主力だ=静岡県焼津市の焼津港

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