刈り入れ(1)ワカメ漁友情が支え
2012年4月28日
■南郷・浅野さんに感謝
船上からでも深さ2メートルくらいまで見える透き通った海に、茶色い帯が揺らめく。「これをボイルすっと、青みがかったきれいな緑になるのよ」。宮城県気仙沼市唐桑のワカメ養殖漁師・鈴木伸宏さん(54)が、長さ1.5メートル、幅15センチほどに育ったワカメを見せてくれた。東日本大震災による津波ですべての養殖施設を失ってから1年。ようやくこぎ着けた刈り入れも、残りわずかとなった。「やってきて良かった」。鈴木さんは喜びをかみしめた。
■再生へ喜びかみしめる
27日午後2時、気温15度。「やっと働きやすい季節になった」。国定公園にも指定されている唐桑半島のリアス式海岸のサクラも満開を迎えた。鈴木さんの小型船が浮かぶ春の穏やかな海からは、あの津波は想像できない。
黒潮と親潮がぶつかる栄養豊富な三陸の海で育ったワカメやカキは、古くから良品として知られてきた。気仙沼を含む同県北部は特に養殖が盛んで、2010年の養殖ワカメは約1万2千トンに上る。
昨年3月11日、津波は気仙沼のワカメ養殖施設にも、容赦なく襲いかかった。ワカメに限らず、カキやホタテなど三陸沿岸の養殖施設は全滅。同県の養殖施設だけでも被害額は281億6千万円(12年4月10日現在)にのぼる。
鈴木さんも刈り入れ時期を迎えていた3カ所の養殖施設に加え、ワカメに塩分を含ませる塩蔵用の施設も失った。鈴木さんは「命を守ることで精いっぱい。再開のことなんて、当時は考えられなかった」と振り返った。震災前45人いたワカメ養殖漁師のうち、今年刈り入れできたのは30人にとどまる。
震災後、最初の刈り入れは今年2月18日。湾内のがれきの片付けに奔走し、知り合いの死を乗り越えてたどり着いた。手にしたのは、最大で長さ4メートル。深い茶色で、つやも弾力もある立派なワカメだったという。その日の夜は、鈴木家の食卓にワカメのみそ汁が並んだ。「何も特別なことはない。いつもの味よ。でも、いつも通りが一番いい」
今シーズンの刈り入れも終わりに近づいた。鈴木さんは、長年親しく付き合ってきた日南市南郷町の近海カツオ一本釣り船「第五清龍丸」の漁労長・浅野貴浩さん(50)への感謝を口にした。「貴浩の支えがなかったら、ここまでできたかどうか分からねえ。ありがとう」。そして、浅野さんに励まされてきた1年を語り始めた。
気仙沼市が復興のシンボルに掲げるカツオの水揚げシーズンが近づいてきた。日南市のカツオ漁師浅野さんとの友情に支えられてきた気仙沼市のワカメ養殖漁師鈴木さんを通し、気仙沼の今を伝える。
【写真】刈り入れの終盤を迎えた養殖施設で、ワカメを引き上げる鈴木さん=27日午後、宮城県気仙沼市
船上からでも深さ2メートルくらいまで見える透き通った海に、茶色い帯が揺らめく。「これをボイルすっと、青みがかったきれいな緑になるのよ」。宮城県気仙沼市唐桑のワカメ養殖漁師・鈴木伸宏さん(54)が、長さ1.5メートル、幅15センチほどに育ったワカメを見せてくれた。東日本大震災による津波ですべての養殖施設を失ってから1年。ようやくこぎ着けた刈り入れも、残りわずかとなった。「やってきて良かった」。鈴木さんは喜びをかみしめた。
■再生へ喜びかみしめる
27日午後2時、気温15度。「やっと働きやすい季節になった」。国定公園にも指定されている唐桑半島のリアス式海岸のサクラも満開を迎えた。鈴木さんの小型船が浮かぶ春の穏やかな海からは、あの津波は想像できない。
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黒潮と親潮がぶつかる栄養豊富な三陸の海で育ったワカメやカキは、古くから良品として知られてきた。気仙沼を含む同県北部は特に養殖が盛んで、2010年の養殖ワカメは約1万2千トンに上る。
昨年3月11日、津波は気仙沼のワカメ養殖施設にも、容赦なく襲いかかった。ワカメに限らず、カキやホタテなど三陸沿岸の養殖施設は全滅。同県の養殖施設だけでも被害額は281億6千万円(12年4月10日現在)にのぼる。
鈴木さんも刈り入れ時期を迎えていた3カ所の養殖施設に加え、ワカメに塩分を含ませる塩蔵用の施設も失った。鈴木さんは「命を守ることで精いっぱい。再開のことなんて、当時は考えられなかった」と振り返った。震災前45人いたワカメ養殖漁師のうち、今年刈り入れできたのは30人にとどまる。
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震災後、最初の刈り入れは今年2月18日。湾内のがれきの片付けに奔走し、知り合いの死を乗り越えてたどり着いた。手にしたのは、最大で長さ4メートル。深い茶色で、つやも弾力もある立派なワカメだったという。その日の夜は、鈴木家の食卓にワカメのみそ汁が並んだ。「何も特別なことはない。いつもの味よ。でも、いつも通りが一番いい」
今シーズンの刈り入れも終わりに近づいた。鈴木さんは、長年親しく付き合ってきた日南市南郷町の近海カツオ一本釣り船「第五清龍丸」の漁労長・浅野貴浩さん(50)への感謝を口にした。「貴浩の支えがなかったら、ここまでできたかどうか分からねえ。ありがとう」。そして、浅野さんに励まされてきた1年を語り始めた。
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気仙沼市が復興のシンボルに掲げるカツオの水揚げシーズンが近づいてきた。日南市のカツオ漁師浅野さんとの友情に支えられてきた気仙沼市のワカメ養殖漁師鈴木さんを通し、気仙沼の今を伝える。
【写真】刈り入れの終盤を迎えた養殖施設で、ワカメを引き上げる鈴木さん=27日午後、宮城県気仙沼市
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