宮崎日日新聞社 河北新報社 合同企画「宮崎むすび塾」
宮崎日日新聞社と東北地方のブロック紙・河北新報社(仙台市)は10月28日、宮崎市木花で津波避難訓練「カケアガレ!日本」と防災ワークショップ「むすび塾」の連動イベント「宮崎むすび塾」を開催した。
島山地区自治会と社会福祉法人木花福祉会・木花保育園との共催。訓練では南海トラフ巨大地震が発生したとの想定で園児、高齢者ら約220人が高台へ避難。ワークショップでは保育園、自治会関係者が訓練の感想を述べ、東日本大震災で被災した「語り部」が自らの体験を踏まえてアドバイス、専門家による避難ルートの検証も行われた。
防災ワークショップ/「むすび塾」(宮崎市・島山自治公民館)
恐ろしい津波/連携し備えを
木花保育園の関係者や島山地区住民、識者が南海トラフ巨大地震が発生した場合の避難経路や住民同士の連携などを話し合った=10月28日午前、宮崎市・島山自治公民館
ワークショップ「むすび塾」には保育園と島山自治会の代表、識者、語り部の計13人が参加し、約30人が傍聴。会場となった島山自治公民館は、宮崎市が県内初となる複合型避難施設の建設を予定する場所だ。
減災・復興支援機構(東京)の木村拓郎理事長が進行役を務め、保育園と自治会の代表が訓練の感想を発表。保育園側からは「(同じルートをたどる)普段の訓練より早く到着した」と成果を喜ぶ意見や「乳母車を押すための体力強化が必要」といった反省点が語られた一方、「今回のコースが絶対に安全とは思えない。避難路については悩みが尽きない」との声も。自治会側は「園児と合同で行うのは初めてだったが、相当訓練していると感じた」という驚きのほか「高齢者が坂道を上るのは大変」と年配者への配慮についての意見も出された。
自力で歩けない園児を乳母車に乗せ坂道を上る木花保育園の保育士ら。一刻も早く高台へ逃げるため、坂道であっても駆け足で上っていく=10月28日午前、宮崎市熊野
参加者は訓練で感じた不安について識者に質問。「非常時に県道の車が止まってくれるか心配」という金丸洋子園長に対し、東北大災害科学国際研究所の保田真理助手は「(今回使った)黄色の旗ではなく、蛍光色など目立つものを使うべきだ」と助言を送り、「避難路の途中にあったブロック塀も倒壊の恐れがあり危険」と指摘した。
木村理事長はポイントとして「保育園と地元の連携」を挙げ、「今回の取り組みが厳しい条件下で子どもをどう守るかを議論するきっかけになればいい」と期待。「訓練は絶対に無駄にならない。今後もぜひ続けていただければと思う」と締めくくった。
河北新報社総括
犠牲の教訓今も息づく
備えは継続が大事な一方で、継続することが難しいと言われる。むすび塾を開催した宮崎市では、東北と同様に過去に繰り返し地震・津波被害を受けた被災地の知恵が、今も地域に息づいていた。
島山地区の住民は、多くの犠牲を出した1662年の外所(とんどころ)地震の教訓を伝承するため、50年ごとに供養碑を建立し、350年以上も慰霊を続けている。
半世紀が過ぎると世代交代が進み、震災の記憶も薄れる。一方で、人の一生よりも長い周期の津波は珍しくない。子孫に警鐘を鳴らそうとした先人の思いをくみ、住民は避難訓練や防災・減災対策に取り組む。
市は近く、同地区に複合型避難施設を建設する。施設を要望してきた住民の期待は大きい。ただし、東日本大震災では、津波が巨大な防潮堤や人々が避難した建物をのみ込んだケースもあり、構造物の限界が浮き彫りになった。
木花保育園長が「訓練のたびに悩みが増える」と語ったように、備えには特効薬がない。犠牲を後世に伝え、複数の避難方法やルートなど、備えの選択肢を増やす努力こそが、命を守る盾になる。