嘘の心理学
宮崎県医師会・精神科医会
2021年07月01日掲載
「交際相手が家族や友人に会わせてくれない。急な手術で必要と言うのでお金を貸した。怪しいと思った矢先に連絡が取れなくなる…」結婚詐欺や振り込め詐欺、甘い言葉での投資の勧誘、効果の怪しい健康器具など、なぜ人はだまされてしまうのでしょう。
人はメッセージを本当だと判断する傾向にあり、嘘を見破るのが苦手です。それは、相手をいちいち疑うときりがなく、基本的に本当という前提にしないと日常が成り立たないからだといわれています。①日常には圧倒的に本当の話が多い②会話で相手を疑うことはためらわれる③ひとまず本当の話と見なした方が労力は少ない④最初に真実と判断すると修正は困難である⑤嘘は簡単に確認できないものが多い、などの理由があり、これを「真実バイアス」と呼びます。
一方、嘘のうまい人は①魅力的な外見・振る舞いである②相手を真っすぐに見る、前傾姿勢を取るなど正直そうなそぶりが自然にできる③前もって内容を考えているのか、嘘をつくときに頭の労力を使わない④嘘をつくときに罪悪感や愉快さを覚えず、平然としている⑤相手を洞察するのが得意、などの特徴があるとされます。つまり、良心の呵責(かしゃく)もなく嘘が口をついて出る人が、「信じやすい」あなたの隙を狙っているのです。
客観的な目をもって自衛を
精神科領域では、情緒を満たすために嘘をつく「虚偽性障害」、人の注目を集めるために病気を装う「ミュンヒハウゼン症候群」、保険金など利益を得るために病気を装う「詐病」を経験します。一見、会話に不自然さは感じられず、疑問点を問いただすといつの間にか内容は修正されます。嘘だと問い詰めると激高し、その場から立ち去ることもあります。よって、医療者は十分な情報収集を行い、スタッフで共有するなど客観的視点を取り入れるように心掛けています。読者の皆さんも急な用立ての話や甘い誘惑に踊らされず、良き相談者など客観的な目をもつことで自衛しましょう。「自分はだまされない」。その過信こそがだまされやすさなのです。