「きこえ」について
宮崎県医師会 耳鼻咽喉科医会 井藤健
2024年09月19日掲載
モノの振動を変換し脳が音として解釈するシステムを、「きこえ」といいます。ピアノを弾くと弦の振動が起こり、その振動が鼓膜に到達した瞬間に脳が「ド」の音と解釈します。この「きこえ」のシステムについてお話しさせていただきます。
私達が音を聞くためには、音の入る道(耳介、外耳道)、音を伝える装置(鼓膜、耳小骨、中耳腔)、音の振動を電気信号に変換する場所(内耳の蝸牛)、電気信号を脳へ伝える配線(聴神経)、電気信号を音と感じる大脳(視床、聴覚野)これらすべてが働いていなければなりません。
「きこえ」が悪いということは、音が入る道(耳垢栓塞など)、音を伝える装置(中耳炎など)、電気信号に変換する場所(内耳障害)、きこえの神経の障害(神経性障害)、脳の障害(中枢性障害)によるものです。1カ所の障害だけではなく、2~3か所同時に障害されることもあります。
耳鼻科では音の入る経路の障害を、標準純音聴力検査で障害部位の診断を行います。障害部位によって、さらに詳細な検査をすることもあります。ただ、小児はこの検査が上手にできないため(5~6歳から可能)、聴力の客観的評価が困難です(別の方法で聴力の評価は可能)。この聴力の結果で、診断と治療を開始します。
聴覚情報処理障害という新しい疾患も
最近「きこえているのに、きこえていない」聴覚情報処理障害という新しい概念の疾患があります。聞き落としが多い、聞き返しが過多なのに聴力検査で異常がない。脳での言語整理がつかないため生活に支障をきたす状態、という疾患です。現在のところ、診断を確定するための検査、診断基準もありません。心療内科、精神科で多動性障害、発達障害など多くの疾患と鑑別が必要です。本人以外にも負担や不安がかかり、医療従事者も悩んでいます。
「きこえ」が悪いという不安、あふれるネットからの情報でストレスがたまります。不安、疑問に思ったことは、医師に聞きにくければ、スタッフやかかりつけ薬剤師に話してください。「きこえ」は、医療従事者とのコミュニケーションが重要です。