「公正世界信念」に ついて
宮崎県医師会 精神科医会 木村佳代
2025年01月04日掲載
突然ですが、皆さんは「公正世界信念」という概念をご存じでしょうか。
例をあげると日本昔話の「花咲かじいさん」があります。心優しく良い行いをしたおじいさんには金銀財宝が与えられ、意地悪で悪い行いをしたおじいさんにはガラクタが与えられる、というお話です。私たちは子どもの頃から似た内容の昔話やおとぎ話をたくさん読んで育ちます。そして私たちは「世の中が公平であってほしい」「正義で守られていてほしい」という願望を抱きがちです。勧善懲悪の時代劇やドラマは老若男女問わず人気があり、見終わった時にはスカッと晴れやかな気分になっているものです。
この、「世の中は公平にできていて、良い行いをすれば良いことがあり、悪い行いをすれば悪いことが起こる」。もっと言えば「世の中は正義で守られていて、悪事が横行するはずがない」と信じる気持ちのことを「公正世界信念」と言います。
偏った考えに陥るのは公正世界信念が働くから
公正世界信念は、良い行いをするように、そして悪い行いをしないようにという自制心を強化し、人々が幸せに暮らすことに役立っている面があります。しかし、災害、事故、犯罪などのトラウマ(人の生死に関わるつらい体験で受けた心の傷)になるような出来事の被害を受けた場合はどうでしょうか。
このような出来事は突発的に不条理に起こるものですが、公正世界信念が強固だと、「悪いことが起こったのは、自分が悪いことをしたせいだ。自分がいけなかったのだ」と自分を責めるようになります。周りの人たちも公正世界信念に基づいて「そのような悪いことが起こるのは、あなたにも悪いところがあるのだろう」と被害者を責める気持ちになることがあります。
あるいは、公正世界信念を極端に否定して「今まで信じてきたことは全くの間違いで、世の中は危険だらけだ。自分が何をしても無駄だ」と過度の恐怖心や無力感を抱くこともあります。
このように「公正世界信念」を知っておくと、トラウマ体験により苦しんでいる被害者や周りの人たちが陥りやすい心理について理解することができます。もし、偏った考えに陥っている人がいたら、そのことに気付いてあげたいですね。
なぜ世間が被害者を責めるのか 被害者心理の理解に役立つ