防災ニュース
延岡竜巻きょう1年 被害教訓市対策を強化 被災農家や洋菓子店記憶胸に復興歩み
2021年5月5日
延岡市中心部を縦断し、家屋や農地に大きな被害をもたらした、2019年9月の台風17号接近に伴う竜巻災害は22日、発生から1年を迎えた。被害を受けた農地や家屋の多くは復旧を終えたが、2世帯は自宅の再建を断念するなどして一時避難した市営住宅に身を寄せる日が続く。市は発生場所の予測が難しい竜巻の被害を教訓に、事前の備えに向けた情報発信強化や、被害対応の資機材備蓄など対策強化を続けている。
市が受け付けた家屋の罹災(りさい)証明は512件で、内訳は大規模半壊1件、半壊3件、一部損壊508件。農業関係はビニールハウスやイネの倒伏、がれきやガラスの水田への飛散が確認され、被害総額は5496万円。国は昨年10月、同市の竜巻などを激甚災害に指定した。
家屋被害は当初、復旧支援の根拠となる「災害救助法」などの適用基準に竜巻被害が合致せず公的支援の先行きが不透明だったが、市独自の助成事業や全国から寄せられた義援金などを活用。家屋、農業施設ともに被害発生から半年後におおむね修繕作業を終えた。
市は被害を教訓に、台風10号が本県に最接近した際、気象庁の竜巻注意情報を市災害情報メールに加え、SNS(会員制交流サイト)で初めて配信。台風9号は竜巻の要因となった台風17号と通過コースが似ていたことから、市教委は小中学校を通じて保護者らへ警戒を呼び掛けた。
当時、破損した屋根から雨が打ち込むなどの二次被害も生じたことから、市はブルーシート約2千枚を備蓄。防災ハンドブックを改定し、竜巻発生の予兆や避難時の注意点の解説なども明記し、全戸配布した。市危機管理室は「竜巻のリスクを防災訓練や講話などを通して今後も啓発したい」としている。
「自然の恐ろしさを思い知った」「あの時のことを忘れない」。2019年9月22日、延岡市を襲った竜巻は、家屋や農地に大きな爪痕を残した。あれから1年。被害を受けた稲作農家や洋菓子店の店主は、それぞれに被害の記憶を胸に刻みながら、復興への歩みを進めている。
同市夏田町の50アールでコメを栽培する高田博文さん(70)。当時、自宅から田んぼを眺めていると、不意に愛宕山が見えなくなり、黒いものが近づいてきた。すぐに家の瓦が落ち始め、慌ててカーテンを閉めた。田んぼには1メートルを超えるスレート屋根やガラス、材木などが飛んできていた。
「自然相手の商売だと分かってはいたが、竜巻は想定外」。翌日にはボランティアが駆け付け、大きな飛来物を除去してくれた。その後も親類に助けを借り、ガラスなどを取り除く作業に追われたが、異物混入の恐れがあるため、周辺の農家とともに稲刈りを断念せざるを得なかった。
代々続くコメ農家。「初めて人ん方のコメを食べた」。言葉にできない寂しさが押し寄せた。今年は田んぼにガラスが落ちていないかの確認を6月の田植え前まで続けた。今月には台風10号が接近。「同じことにならなければいいが」。昨年の記憶が頭をよぎって心配になり、九州に近づく前から進路などの情報を追った。
ようやく、来月初めに稲刈りを迎える。「自然と生きるしか、てにゃわん。待ってくれている人に今年はうまいコメを届けたい」。色付いた稲穂を見つめ、喜びをかみしめる。
同市日の出町で洋菓子店「サンジャン」を営む小松原健介さん(53)は当時、午前10時の開店に向けて準備をしていた。外で風がうなる音がして雷が鳴り、一瞬で窓ガラスが5枚割れた。「お客さんがいる時間でなくて本当に良かった」
外壁などを修復し、1カ月後に店を再開。客からねぎらいの言葉を掛けてもらい、客足もすぐに戻った。竜巻対策として店にシャッターを付けたが、木製の陳列棚に付いた複数の傷はそのままにしている。「年月が経過しても忘れないよう、しっかりと記憶にとどめたい」
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