みやざき報道ファイル2018 自然災害
2018年12月31日
水の上がり方が速い-。台風24号が本県に接近した9月30日、宮崎市消防団高岡分団の薬師博幸分団長(46)は、市高岡総合支所に設けた指令室で緊張を強いられていた。前々日から降り始めた雨は午前8時ごろから強くなり、同10時ごろからさらに激しさを増した。同市高岡町中心部や穆佐(むかさ)地区からは浸水発生の情報が入り始め、2005年の台風14号被害が頭をよぎった。
非常に強い勢力で本県に近づいた台風24号。宮崎地方気象台によると、同市付近では午前11時までの1時間に約120ミリの猛烈な雨が降ったとみられ、同気象台は記録的短時間大雨情報を発表した。各地で浸水し、同市だけで276棟が被害を受けた。
同分団は約100人態勢で水防、救助活動に当たった。救助用ボート4艇をフル稼働させ、逃げ遅れた人を救助。浸水のスピードは予想より速く、道路が冠水して目的地まで直接行けないこともあったが、現場は奮闘してくれた。誰もが「犠牲者は絶対に出さない」という思いだった。
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05年の台風14号による浸水被害を受け、同町では内水被害を防ぐための排水機場が整備されたが、今回の被害を防ぐことはできなかった。国や市は「雨量が10年に1度の大雨を想定したポンプの排水能力を超えた」としている。しかし住民は「なぜ」という疑問と、再び起きることへの不安を感じている。
気象庁によると、今後猛烈な勢力の台風は増加する可能性が高い。大雨の頻度も増えると予測されていて、地球温暖化が原因の一つと考えられている。NPO法人県防災士ネットワーク宮崎支部長の濵川秀一さん(64)は「ハード対策には限界があると認識することが必要。自ら必要な情報を集め、身を守るための方法を日ごろから考えておかなくてはいけない」と話す。
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全国的に猛暑となった今年の夏は、暑さが「災害」として扱われた。宮崎市中心部と串間市では、7、8月だけで真夏日(最高気温が30度以上)を48日、えびの市加久藤では猛暑日(同35度以上)を19日観測した。7、8月に熱中症の疑いで搬送された人は県内で昨年同期より44人多い770人で、統計を取り始めた08年以降最多。4月30日〜9月30日に熱中症で3人が亡くなった。
象徴的な日となったのは7月23日だ。県内全17観測地点で30度を上回る中、中学、高校のスポーツ大会が集中。不調を訴える人が続出し、出場選手や応援の保護者ら35人が搬送された。この日は気象庁が猛暑に関する異例の記者会見を開き「命の危険がある暑さ。災害と認識している」と表明した。
猛暑を受け、県内の自治体では学校の教室にエアコンを設置する動きが加速。ただ、単年度での整備は難しいという認識を示している自治体もあり、保護者や現場の教師からは子どもの命を守るための対策として早急な整備を求める声が上がっている。
県立看護大の江藤敏治教授(予防医学・行動科学)は今夏の猛暑を振り返り「水分補給を呼び掛けるなどの対策をしていれば熱中症を防げるというおごりがあるように感じる」と大会の主催者などに警鐘を鳴らす。特に教育関係者やスポーツの指導者は認識を改める必要があると強調し「大会の時期を大幅に変更するなど、既成概念にとらわれない検討を、専門家を交え進めるべき」と指摘している。
【写真】浸水被害を受けた穆佐地区で、消防団のボートで救助される住民=9月30日午後、宮崎市高岡町麓
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