災害への意識 組織化で自助共助浸透
2019年1月27日
「2011(平成23)年に起きた東日本大震災の津波の映像は、沿岸部の住民として恐怖を覚えた」。志布志湾から1キロほど内陸に位置する串間市の寺里地区自治会長・金丸悦夫さん(73)は振り返る。
南海トラフ巨大地震が発生した際、県内で最も高い最大17メートルの津波が到達すると予測されている同市。375世帯、794人が暮らす同地区でも13(同25)年に自主防災組織を立ち上げた。
組織結成から5年半、避難訓練や備蓄品の購入などさまざまな活動に取り組んできた。1人暮らしの高齢者に「避難のときは迎えに行くからね」と声を掛ける住民の姿も目にするようになった。
「『自助』『共助』の意識が着実に浸透している」。金丸さんは確かな手応えを感じている。
津波によって多くの命を奪った東日本大震災は、県民の防災意識に大きな変化をもたらした。消防白書によると、本県の自主防災組織率は、震災前の10(同22)年の63・5%(全国平均74・4%)から、17(平成29)年には83・9%(全国平均82・7%)に伸びた。
しかし一方で、組織の形骸化や未加入者への対応といった課題も表面化している。
日南市・油津港に隣接する下東地区の自主防災組織は「給食給水」「避難誘導」など、有事の際の担当を決めている。ただ、自治会長の益田政司さん(71)は「実際に住民が自分の役割を把握しているか分からない」。
避難訓練の参加者は毎回同じ顔触れのことが多く、益田さんは「津波が迫る中で、本当に全員が無事に避難できるのか」との不安が拭えずにいる。
本県で警戒が必要な災害は地震や津波だけではない。宮崎市高岡町は台風により2度の大規模な浸水被害に見舞われた。
05(平成17)年の台風14号の被害を受け、同町などの4河川で排水ポンプの整備や河川改修、築堤が進んだ。しかし、18(同30)年の台風24号で想定以上の大雨が降り、再び町内の一部が浸水。被害が大きかった小山田地区に住む中村正俊さん(66)は「初めは水の上がりが遅かったため、整備の効果が出ていると安心し、避難が遅れた人も多かった」と振り返る。
実際に同市は台風が接近した9月30日正午から翌朝まで、同町全域の1万1277人に避難指示を出したが、避難者数はピーク時でも128人にとどまった。
県防災士ネットワークの芝﨑敏之理事長は「ハード面の対策に頼るだけではいけない」と指摘。「自主防災組織の未加入者も含めた避難訓練など、地域が一体になれる取り組みを行政と自治会などが連携して行うことが必要」と力を込める。
18(同30)年4月、霧島連山・硫黄山(1317メートル)が250年ぶりに噴火した。えびの高原荘総支配人で、同高原自主防災連携組織会長の高橋直樹さん(41)は「登山者の避難誘導の在り方など、備えの大切さを再認識した」と、改めて防災への思いを強くした。
同時に「火山を観光資源と捉えれば、えびのの可能性はさらに広がる」との意識も芽生えた。
同高原は登山やトレッキングを軸として観光客を取り込んできたが、今後は火山活動中でも観光客を落ち込ませない取り組みが求められる。
「火口から立ち昇る噴気を間近で見られる場所は全国でも少ない。豊かな自然と合わせPRしたい」と高橋さん。「火山と共生」を新しい時代の課題に位置付け、前を向いている。
【写真】海と住宅地が隣接する日南市の下東地区。自治会長の益田さんは自主防災組織の形骸化や未加入者への対応に不安を感じている
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