伝統の人形をこの手で守り続けたい
2021年03月04日掲載
下西 美和さん
『佐土原人形ますや』 7代目
旧佐土原中学校の校舎を改築したという趣ある木造の工房で、黙々と作品に向き合う一人の女性。下西美和さんは、約200年もの歴史を刻む『佐土原人形ますや』の7代目です。
以前は宮崎県総合博物館に勤め、週末ごとに全国各地へ足を運び、土地ごとの「郷土玩具」を収集することを趣味としていた下西さん。その中で「佐土原人形」と出合い、そこに在るだけで物語が感じられる雄弁な佇まいに魅了されたと言います。後継者がいなかった当時の状況に強い危機感を覚え、「“宮崎の宝”とも呼べる伝統を絶やしてはいけない」と、自ら作り手となることを決意。それから地道に工房に通い続け、技を習いながら先代・阪本兼次さんとの信頼を深めていくこと10年。同店の長い歴史で初めて、血縁者以外で屋号を受け継ぐこととなりました。「地塗り(下塗り)だけを2年やり、さらに赤色の塗りだけを2年やり––と徐々に任せてもらいました。塗りの工程一つとっても、筆遣いはもちろん湿度や天気によって品質が左右される難しい作業。根気がいる年月でしたが、感覚を養うために必要不可欠な時間だったと思います。努力を認めてもらったと実感したのはつい最近、先代がずっと使われていた“すずり”を譲ってもらった時でした。恐れ多くてなかなか使えないのですが、『あぁ、いよいよ』と気が引き締まる思いです」。
宮崎の宝を、後世につなぐ
「伝統は一度途絶えてしまうと二度と完全には戻らないんです。博物館に勤めていた頃、失われてしまった文化をたくさん見てきました。だからこそ、『数十年後、私が老いても変わらぬ品質を守り続けるにはどうすれば良いか』『ゆくゆくは文化財になるであろう人形の“型”を、損傷することなく保存し続けるにはどうすれば良いか』といった事にいつも考えを巡らせています」。佐土原人形に魅せられて踏み入れた職人の世界。受け取った伝統のバトンが重くとも、地道にそれを守り続けてゆく。下西さんの窯元としての日々は、まだ始まったばかりです。