県北の映画文化を守る立役者
2022年01月06日掲載
有田 美紀さん
延岡シネマ 支配人
「延岡の子どもたちのためにこの劇場を存続させたい」。およそ10年前、有田さんが『延岡シネマ』の支配人にならないかと打診を受けた際、受け取った言葉です。
県北唯一の映画館として愛されてきた同館ですが、シネマコンプレックス(以下シネコン)の参入などで一時は閉館に追い込まれる危機に。福岡県の出張上映会社が経営を引き継いだことで難を逃れたものの、業績低迷が続いていました。一方、延岡市で生まれ育ち、高校卒業を機に福岡に移り住んで以降、ひたむきに映画業界に身を捧げていた有田さん。映画愛が高じて映画配給会社で手腕を振るっていた頃、担当作品の宣伝活動をしていた際に縁がつながり、同館の前社長・山本さんにその情熱を見込まれて声が掛かったのです。
「地元を離れて20年は経ちますし、今更帰郷、しかも映画館を引き継ぐなんて…とかなり悩みました。でも、延岡と縁もゆかりもない山本前社長がここまで県北の映画文化を守るために心を砕いてくれている、それなら私がやらなきゃ、と一念発起したのです」。
平成24年、延岡にUターンして支配人に就任。その後、「奇跡の映画館」と称されるまでの復活を遂げました。
注目集める独自の企画 活力ある街づくりにも寄与
“わざわざ足を運びたくなる映画館”を目指す有田さんの取り組みは、今や全国から注目を集めています。上映映画のテーマに即したトークショーを開催したり、地元洋菓子店に協力を仰いで映画をモチーフにしたデザートを提供したり、地元の人や企業を巻き込んださまざまな企画を打ち出します。さらに、需要が見込めれば朝5時台から上映するなどの思い切った施策で、とある作品では千人超を動員。その実績が配給会社の目に留まり、小規模映画館では異例のことながら、封切り日から作品を上映できるようになりました。「集客だけでなく、活気ある街づくりの一助となれば」と意気込みます。
東九州自動車道の整備によって、シネコンなどのライバルが一層身近になった昨今。「これをむしろ“流入”の追い風として、全国に当館の取り組みを発信し、来館者を増やしたい」と有田さん。6人のスタッフと力を合わせ、全ての雑務をこなしながら新しい企画を生み出す日々。「苦労も多いが仲間と一緒に楽しみながら乗り越えていきたい」と話してくれました。