高千穂鉄道で使っていた車両で、客に運転体験をしてもらう斉藤拓由さん(左)。「地域の足」復活を夢見る=高千穂町三田井
「たとえ100年かかっても列車を再び走らせたい」。高千穂町・高千穂あまてらす鉄道(高山文彦社長)で運転体験などを担当する斉藤拓由(ひろよし)さん(43)は、廃線となった高千穂鉄道(TR)の元運転士だ。TRの復興運動でシンボル的な存在だったが、いったんは離れた。再びこの線路へと導いたのは、TRと地域住民への強い思いだった。
延岡市出身の斉藤さんは延岡高を卒業し1994年、TRに。2005年9月の台風14号で鉄橋が流されるなど壊滅的な被害を受け、06年に廃線となるまで運転士として勤務。復興運動では労働者代表として決起集会で登壇するなど積極的に関わった。
しかし、妻と子どもを養うため08年、福岡県朝倉市の甘木鉄道に入社。日向市の自宅に家族を残し、単身で赴いた。「廃線後、駅舎を訪れると掃除をする住民がいた。離れるのはつらかった」と振り返る。
少年時代から鉄道好きというわけではなかったが、TRで運転士をしているうちに考えは変わった。にぎやかな高千穂高生、取れたての野菜を手渡してくれる常連客-。運転席の横に必ず陣取る人もいた。たくさんの利用客との触れ合いから、鉄道の魅力と地域の温かさに気付かされた。
甘木鉄道では管理部門の仕事を任されるなどしたが、「高千穂鉄道が夢に出てきた」。15年に家族に請われ、日向市に戻った。福祉の仕事などをしていたが、復興運動を共にした高山社長から声を掛けられ、11年ぶりに高千穂へ帰ってきた。
普段は観光用スーパーカートの乗務や整備をしながら、運転体験を担当。実際に高千穂鉄道で走っていた車両を動かし、魅力を堪能できる。構内を往復900メートル走る約30分の体験で1人1万円と安くはないが、東京や兵庫から訪れる利用者や、何十回と体験しているリピーターもいるなど大人気。希望者には点検作業から一緒にしてもらうなど、飽きられない工夫も凝らしている。
「地域の足」として鉄道を復活させたいと夢を描く。「復興運動もそうだったが、駅舎が残っているのも、地域住民の後押しがあってこそ。高齢者が増えるこれからの時代だからこそ、人の流れをつくる手段として生かす道を探りたい」と先を見据えた。