徳島県の自宅で寄付金目録を原田町長(右)に手渡す佐伯さん(五ケ瀬町提供)
貧しくても等しく教育を受けられるように-。五ケ瀬町桑野内出身の佐伯勝元さん(89)=徳島県在住=が寄付した1億円を基金にした奨学金制度が、五ケ瀬町で本年度からスタートする。戦後間もないころ、炭坑で働いた給与を実家に仕送りしながら自費で大学を卒業するなど苦学した佐伯さん。奨学金は卒業後に同町にUターンすると返済が全額免除されることになっており、制度には「経済的に苦しくても進学をあきらめず、地元に貢献する人材に育ってほしい」との願いが込められている。
佐伯さんは同町桑野内の上組小卒。北九州市の八幡大(現九州国際大)に通いながら炭坑の技術者として働き、給料は実家への仕送りや学費に充てた。卒業後はそのまま同市内の炭坑会社に勤務し、29歳だった1957(昭和32)年、炭坑技術を学ぶため日本炭坑協会の制度を活用して渡欧。ドイツやイタリアで留学生活を送った。
3年間の派遣期限を過ぎたが、「語学やヨーロッパの文化についてもっと勉強がしたい」と向学心を高め、自費でドイツに9年間とどまった。この間に語学力や国際感覚に磨きをかけ、翻訳家として活躍する素地を養った。
40歳で帰国し、東京都内の貿易会社や法律特許事務所に翻訳、通訳の専門家として勤務した。当時は法律用語に精通した翻訳家が希少だったことや、高度経済成長期で輸出入に関する翻訳業務が多かったことから、国際業務の一線で活躍を続けた。
定年退職後は、妹が住む徳島県東みよし町に移住。既に妻を亡くし、子どももいないため、静かに暮らしている。自身の幼少時は戦時中だったこともあり、「故郷の子どもたちには存分に学んでほしい」と、蓄えた私財を故郷に寄付することを決めたという。
佐伯さんは2014年にも町に1千万円を寄付。町内の小学生の海外研修費に充てられている。また、出身の桑野内地区の公園整備費など古里に対する援助を続けてきた。
昨年11月に徳島県の佐伯さんを訪れ、寄付金を受け取った原田俊平町長は「佐伯さんの思いを大切にして、佐伯さんに学ぶ若者がたくさん出てほしい。有望な若者の定住にもつなげたい」と話している。