宮崎保健福祉専門学校の卒業式でクラスメートと記念撮影する冨成さん(前列左から2番目)=8日、宮崎市清武町の半九ホール
74歳からの再出発-。宮崎市松橋1丁目の元会社員冨成辰彦さん(74)が15日、精神障害者の社会復帰を支援する「精神保健福祉士」に合格した。定年後に放送大学へ通い、さらに専門学校で学んだ末につかんだ合格の知らせ。冨成さんは「合格で満足しない。資格を生かして悩む人の話を聞き、安らげる環境づくりを手伝いたい」と意欲を見せている。
近年、精神保健福祉士は高齢化や高ストレス社会を背景にしたメンタルケアや、障害者の雇用促進に向けた就労・定着支援といった役割に注目度が高まっている。県内には887人(2019年1月現在)がいる。
保健福祉系4年制大学で指定科目を履修するか、大学を卒業後、養成施設で1年以上学ぶなどした後に受験する。県内で受験資格を取得できるのは同市の宮崎保健福祉専門学校か、九州保健福祉大(延岡市)の2校で、資格取得後は精神科医療機関や保健所、就労支援施設などで働く。
冨成さんは宮崎大宮高を卒業後、県内の電力会社や建設会社などで営業や事務を担当。定年後は民生委員、児童委員を6年間務めるなどした後、経済的な理由で諦めていた大学進学を決意。2014年から放送大学で心理と教育を学んだ。胸にあったのは現役時代、悩みを抱えた同僚が体調を崩した時のこと。当時は悩みをどう聞いたらいいのか自信がなく、何もできなかったという。「時がたつにつれ、話を聞いてあげたかったという気持ちが膨らんできた」
より専門性を高めようと昨年4月、宮崎保健福祉専門学校へ入学。週5日、午前8時に登校し、午後4時まで若者と机を並べる日々が1年間続いた。クラスメートとは年代の差を感じることもあったが、「目標に向かう気持ちは皆同じ」と、話すうちに打ち解けていった。年度後半は国家試験に向けた勉強もあり、よりハードに。「晩酌もせず、早寝するようになった」と振り返るほど必死に学んだ。
8日に同市であった同校の卒業式では、熱心な姿勢が若い世代にも大きな刺激をもたらしたとして、同校から特別表彰を受けたことが報告され、会場からの拍手に誇らしそうな表情で頭を下げた。
県精神保健福祉士協会の押川奉史会長は「30代が多く活躍する中で、豊富な人生経験を持つシニア層は貴重。安心感、安定感を生かせる即戦力」と歓迎する。
念願の資格を手にした冨成さんは来月から嘱託職員として県内で働き始める。「ここがスタート。自己研さんを続け、相手の気持ちに寄り添う専門家になりたい。体力的には半人前。でも、半人前分に社会へ役割を果たしたい」と前を見据える。